シャンプーもマッサージもされたシェリーが、萬狩の足元に座った。彼女はどこか興奮した様子で口を開け、舌を出しており、足に掛かる吐息は熱かった。
「運動でもさせたのか?」
「シェリーちゃんが庭に出たがったので、十分ほど一緒に散策しました。大きなカマキリがいて、それを口で掴んで自慢げに闊歩していましたよ」
仲西は思い出すように答えながら、自分と萬狩のコップを用意し、そこに麦茶を注ぎ足した。
「シェリーちゃん、お嬢さん犬だと思っていたんですけど、カマキリが好きなんですかね。ずこく興奮してました」
「俺が知るものか」
付き合いはお前より短いんだぜ、と萬狩は低い声で続けた。
萬狩の向かいの席に腰かけた仲西が、「食べられそうですか?」と訊いた。しかし数秒後に、彼は「おや」と小首を傾げる。
「萬狩さん、なんだかお疲れですね。あ、髪を切りました?」
「……ああ、切ってきた」
先程の一件を思い出し、萬狩は思わず口をつぐんだ。
実は、以前に仲西青年と老犬の散歩をしたビーチで、例の小男と待ち合わせをしてしまったのである。今更であるが、俺はなんてことをしているんだと、今になって後悔ばかりが押し寄せた。
小男はあの時、「相談したい事があるんです」と主張してきた。萬狩は、それを聞く義理はないはずと思って、すぐに断ろうとしたものの、涙声で「ぼくには友達もいないし、福岡からこっちに移住したから独りだし、誰に相談していいのか分からなくって」と訴えられて強く断れなかった。
店内だったので他の人間の目もあったし、居心地の悪さと、早々に逃げ出したい気持ちが勝って、萬狩は、小男の一方的な約束を了承してしまったのだ。
約束は午後一時半頃としているが、この炎天下の中を想像するだけで、萬狩は更に気持ちが萎えてしまう。今思い返すと、新手の迷惑極まりない脅迫のような気もしてきた。
「運動でもさせたのか?」
「シェリーちゃんが庭に出たがったので、十分ほど一緒に散策しました。大きなカマキリがいて、それを口で掴んで自慢げに闊歩していましたよ」
仲西は思い出すように答えながら、自分と萬狩のコップを用意し、そこに麦茶を注ぎ足した。
「シェリーちゃん、お嬢さん犬だと思っていたんですけど、カマキリが好きなんですかね。ずこく興奮してました」
「俺が知るものか」
付き合いはお前より短いんだぜ、と萬狩は低い声で続けた。
萬狩の向かいの席に腰かけた仲西が、「食べられそうですか?」と訊いた。しかし数秒後に、彼は「おや」と小首を傾げる。
「萬狩さん、なんだかお疲れですね。あ、髪を切りました?」
「……ああ、切ってきた」
先程の一件を思い出し、萬狩は思わず口をつぐんだ。
実は、以前に仲西青年と老犬の散歩をしたビーチで、例の小男と待ち合わせをしてしまったのである。今更であるが、俺はなんてことをしているんだと、今になって後悔ばかりが押し寄せた。
小男はあの時、「相談したい事があるんです」と主張してきた。萬狩は、それを聞く義理はないはずと思って、すぐに断ろうとしたものの、涙声で「ぼくには友達もいないし、福岡からこっちに移住したから独りだし、誰に相談していいのか分からなくって」と訴えられて強く断れなかった。
店内だったので他の人間の目もあったし、居心地の悪さと、早々に逃げ出したい気持ちが勝って、萬狩は、小男の一方的な約束を了承してしまったのだ。
約束は午後一時半頃としているが、この炎天下の中を想像するだけで、萬狩は更に気持ちが萎えてしまう。今思い返すと、新手の迷惑極まりない脅迫のような気もしてきた。