これはスタッフの対応が悪いという訳ではなく、男の伝え方が非常に下手であるせいなのだ。中年女性スタッフは、心底困っているのか、敬語に沖縄鈍りが出始めていた。新しい客の方は、口籠りが更に悪化している。

 口を挟んでしまおうか、と萬狩が胃のむかつき感を強く感じたところで、戻ってきた東風平があっさりと事を解決した。

 どうやら東風平は、後ろの方でそのやりとりを聞いていたらしく、男が伝えたい事を簡単に理解してしまったのだ。

「白髪染めも希望されているという事なので、まずは軽く整えてから染髪剤をつけましょう。これまでに薬剤が頭皮についた事で、痛くなったりした事はありますか?」
「な、ないです。一度も、多分、なかったような気がするけど……その、去年一回だけ染髪した事があるぐらいで、確かヘナとかいう薬剤でした」
「ああ、オーガニックの方ですね。うちも同じものを扱っていますよ。頭皮に優しいのでお勧めではありますが、白髪染めだと、ちょっと弱いと思います」

 女性スタッフに代わり、東風平がスムーズに話しを行った。ヘナの商品ではないが、低刺激の薬剤があるのでそちらを使いましょう。念の為、薬剤を頭皮から若干離す形で染めていきますので、安心して下さい、と告げて、あとは彼女に任せる形で萬狩のもとへ戻ってきた。

 萬狩が隣の席を確認しようと心を決めたところで、東風平がこう言った。

「お待たせしてしまい、すみませんでした」
「いえ、別にそれほど待ったわけでも……」

 東風平は言うなり、専用のカットバサミを手に持つと、萬狩の左右の髪の長さを確認しながら、再びハサミを入れ始めた。