「仲西くんから、『木曜日の萬狩さんが夏バテっぽい』と阿呆みたいな文章でメールが――おっほん――報告が来ていましたので。私の周りも、夏バテが流行っているからこそ分かりますが、栄養を取らないと、気分の悪さは長引きますからね」

 それはどうも、と萬狩は短く礼を述べた。

 仲村渠獣医は、いつものようにシェリーの診察を行った。目を覗き込み、歯茎の色を調べ、首周りと足腰を丁寧に触診し「ふむ」と肯く。

「体調は良さそうですな。毎年夏は大変でしたが、クッキーが効いているのでしょう」
「夏バテが始まってからは、クッキーの数も少しは減っている。最近の夜中の目覚めも、二、三日置きぐらいだ」
「そうですか。なんにせよ、クッキー効果はあると思いますよ。まぁ今年の夏は比較的落ち着いている方ですし、九月の中盤からは、徐々に涼しくなるでしょう」

 つまり、それまでは頑張れという事だろう。萬狩は察して「そうか」とだけ答えた。

 萬狩は老犬の件よりも、仲村渠と自分が感じている季節感の温度認識について、少なからず衝撃を受けていた。仲村渠老人は、これを落ち着いた暑さだと表現したが、車を運転しているだけで両腕が日焼けする強烈な日光は、他県の人間にとっては並大抵のものではない。

 仲村渠獣医は、常備している水筒を食卓に置くと、熱いお茶を飲み始めた。萬狩は、その様子を眺めながら電話機のそばにもたれかかり、もらったスポーツドリンクを口にした。

 シェリーがのそりと起き上がり、萬狩の足元に座った。くいと顔を上げ、彼を見上げる。

「なんだ。クッキーでも欲しいのか」

 尋ねれば、笑うような顔で「ふわん」と返事があった。それを見ていた仲村渠が「すっかり餌付けられてますなぁ」と呑気に笑った。