傷の様子を見る限り、怪我をして半日は経過している状態だったらしい。襲われたのは深夜から明朝にかけてで、仲西少年が学校を終えて駆け付けた時には、既に体毛にこびりついていた血も固まり、ほとんどが化膿してしまっている状況だった。
「今思えば、息をしているのが不思議なぐらいだったんです。仲村渠(なかんだかり)さんは、浅はかな事をした僕を少しだけ叱って、けれど、お金もないのに出来る限りの治療を行ってくれました。母親はどうせ深夜まで帰ってこないから、僕も付きっきりで看病して、でも結局は……もたなかったんです」
仲西青年は、そこで深呼吸をした。涙を堪えているのが分かって、萬狩は黙っていた。
ふう、と息を吐き、仲西は先を続けた。
「もう応える事は出来なくとも、声は最後まで聞こえているからと仲村渠さんは言いました。短い間だけど、しっかり愛してくれたから、あの子は僕と会うまではと最期まで生にしがみ付いていてくれているのだと、彼は、そんな事を言うんです」
仲西少年は、その言葉に余計泣いた。泣きながら、もう視力も失われてしまった犬に「好きよ」と声を掛け、「そばにいるから」と身体を撫で続けた。声だけは気丈に振る舞って「大丈夫だよ」「怖くないよ」と、死の淵で苦しむ犬を励まし続けた。
犬の最期は、驚くほど穏やかだったという。乱れていた呼吸もいつしか穏やかになり、仲西少年との短い暖かな時間を過ごした後、その犬は、眠るように息を引き取った。
「ずっと、犬が飼いたかった。父さんが亡くなる前から、憧れていたんです。今でも犬が大好きなんですけど、今は一人暮らしだから、寂しい思いをさせてしまうし、狭い部屋では可哀そうでしょう?」
「そうだな」
「今思えば、息をしているのが不思議なぐらいだったんです。仲村渠(なかんだかり)さんは、浅はかな事をした僕を少しだけ叱って、けれど、お金もないのに出来る限りの治療を行ってくれました。母親はどうせ深夜まで帰ってこないから、僕も付きっきりで看病して、でも結局は……もたなかったんです」
仲西青年は、そこで深呼吸をした。涙を堪えているのが分かって、萬狩は黙っていた。
ふう、と息を吐き、仲西は先を続けた。
「もう応える事は出来なくとも、声は最後まで聞こえているからと仲村渠さんは言いました。短い間だけど、しっかり愛してくれたから、あの子は僕と会うまではと最期まで生にしがみ付いていてくれているのだと、彼は、そんな事を言うんです」
仲西少年は、その言葉に余計泣いた。泣きながら、もう視力も失われてしまった犬に「好きよ」と声を掛け、「そばにいるから」と身体を撫で続けた。声だけは気丈に振る舞って「大丈夫だよ」「怖くないよ」と、死の淵で苦しむ犬を励まし続けた。
犬の最期は、驚くほど穏やかだったという。乱れていた呼吸もいつしか穏やかになり、仲西少年との短い暖かな時間を過ごした後、その犬は、眠るように息を引き取った。
「ずっと、犬が飼いたかった。父さんが亡くなる前から、憧れていたんです。今でも犬が大好きなんですけど、今は一人暮らしだから、寂しい思いをさせてしまうし、狭い部屋では可哀そうでしょう?」
「そうだな」