「あの頃の僕は、無知な子供だったんです。こっそり給食の残りをあげて、少しの間だけ遊んで、それで何も問題はないんだと、そう思い込んでいたんです」
簡単に考えていたんですよ、と仲西は落ち着いた口調で話したが、その瞳は僅かに揺れていた。
後悔しているんです、今でも忘れられない。悔やんでも悔やみきれなくて、だから、僕は勉強したのだと――どこか大人びた眼差しで、仲西は囁くように言葉を続けた。
「野犬が出るだとか、狂犬病があって、犬にもちゃんと予防接種が必要だとか、そういった知識がまるでなかったんです。ある日、いつものように秘密基地の小屋に行くと、あの子が傷だらけで横たわっていました」
懐いてくれていた犬だったが、ある程度の成犬で中型サイズだったため、幼い仲西は、その犬が逃げてしまわないようにと紐で繋いでいた事を語った。そのせいで、侵入して来た野犬に集中攻撃を受けて、その犬はひどい怪我を負ってしまったのだ。
想像するにも痛々しい内容だったが、それは実際に起こってしまった事実なのだ。萬狩は、「そうか」と呟く事しか出来なかった。ようやく口に出来るまでになった己のトラウマを、仲西は力なく微笑んで口にする。
「現場は悲惨でした。恐らく、子供が見たらトラウマになってしまうほどの惨状で、――あの子は既に虫の息でした。僕は後悔して、重いあの子を担いで無我夢中で、近くの動物病院に連れて行ったんです」
そこで少年だった仲西は、小さな動物病院を経営していた当時の仲村渠院長と出会った。
その犬を見るなり、仲村渠獣医は顔を顰めたという。残念そうに首を振り、残酷な事実ではあるが、恐らく助からない事を包み隠す事なく少年に告げた。
簡単に考えていたんですよ、と仲西は落ち着いた口調で話したが、その瞳は僅かに揺れていた。
後悔しているんです、今でも忘れられない。悔やんでも悔やみきれなくて、だから、僕は勉強したのだと――どこか大人びた眼差しで、仲西は囁くように言葉を続けた。
「野犬が出るだとか、狂犬病があって、犬にもちゃんと予防接種が必要だとか、そういった知識がまるでなかったんです。ある日、いつものように秘密基地の小屋に行くと、あの子が傷だらけで横たわっていました」
懐いてくれていた犬だったが、ある程度の成犬で中型サイズだったため、幼い仲西は、その犬が逃げてしまわないようにと紐で繋いでいた事を語った。そのせいで、侵入して来た野犬に集中攻撃を受けて、その犬はひどい怪我を負ってしまったのだ。
想像するにも痛々しい内容だったが、それは実際に起こってしまった事実なのだ。萬狩は、「そうか」と呟く事しか出来なかった。ようやく口に出来るまでになった己のトラウマを、仲西は力なく微笑んで口にする。
「現場は悲惨でした。恐らく、子供が見たらトラウマになってしまうほどの惨状で、――あの子は既に虫の息でした。僕は後悔して、重いあの子を担いで無我夢中で、近くの動物病院に連れて行ったんです」
そこで少年だった仲西は、小さな動物病院を経営していた当時の仲村渠院長と出会った。
その犬を見るなり、仲村渠獣医は顔を顰めたという。残念そうに首を振り、残酷な事実ではあるが、恐らく助からない事を包み隠す事なく少年に告げた。