「暑いのに熱い珈琲って、美味しいですかね?」
すると、仲西が不思議そうに問い掛けてきた。
息子達が幼い頃にしてきた質問だな、と考えながら、萬狩は「ふん」と鼻を鳴らした。
「大人になれば分かるさ」
「僕、じゅうぶん大人なんですけど……」
仲西は余程犬が好きなのか、その後、萬狩がリビングでノートパソコンに向かっている間もシェリーの相手をしていた。寝ている彼女に寄り添うように横になり、「柔らかい毛だなぁ」「可愛いなぁ」と飽きずに繰り返している。
シェリーが身体を休めている間は、無理にトリミングもシャンプーもしないのが決りのようだ。この現場を彼の上司が知ったなら、さぼりだと言われるのではないかと、萬狩はそんな事を考えてしまう。
不意に思い出したのは、仲村渠が話していた「彼の犬を診た事がきっかけで」という交流の始まりだった。仲西は幼い頃に父親を亡くし、母親とは折り合いが悪かったらしいが、犬に関わる出来事とは、一体なんだったのだろうか。
以前は関与しないようにと思っていた萬狩だったが、なんとなしに「なぁ」と彼に話しかけていた。
「お前は昔、犬を飼っていた事があるのか」
尋ねると、仲西は横になったまま、きょとんとした顔を萬狩に向けてきた。
萬狩は、パソコンの画面に視線を戻しながら「俺は」と思いつくままに話した。
「親と同居している時代に、ペットを飼った事がなかった。結婚して、二人の息子が出来た後に友人から『一週間預かって欲しい』と頼まれた事があって、一番上の息子が面倒を見ていた事がある程度だ。長男は当時六歳で、リードを持つ権利を絶対に譲らなくてな。妻が不安がるんで、俺が散歩についていったんだ」
話しながら、萬狩は「ああ、そうだった」と、当時の様子を鮮明に思い出した。
すると、仲西が不思議そうに問い掛けてきた。
息子達が幼い頃にしてきた質問だな、と考えながら、萬狩は「ふん」と鼻を鳴らした。
「大人になれば分かるさ」
「僕、じゅうぶん大人なんですけど……」
仲西は余程犬が好きなのか、その後、萬狩がリビングでノートパソコンに向かっている間もシェリーの相手をしていた。寝ている彼女に寄り添うように横になり、「柔らかい毛だなぁ」「可愛いなぁ」と飽きずに繰り返している。
シェリーが身体を休めている間は、無理にトリミングもシャンプーもしないのが決りのようだ。この現場を彼の上司が知ったなら、さぼりだと言われるのではないかと、萬狩はそんな事を考えてしまう。
不意に思い出したのは、仲村渠が話していた「彼の犬を診た事がきっかけで」という交流の始まりだった。仲西は幼い頃に父親を亡くし、母親とは折り合いが悪かったらしいが、犬に関わる出来事とは、一体なんだったのだろうか。
以前は関与しないようにと思っていた萬狩だったが、なんとなしに「なぁ」と彼に話しかけていた。
「お前は昔、犬を飼っていた事があるのか」
尋ねると、仲西は横になったまま、きょとんとした顔を萬狩に向けてきた。
萬狩は、パソコンの画面に視線を戻しながら「俺は」と思いつくままに話した。
「親と同居している時代に、ペットを飼った事がなかった。結婚して、二人の息子が出来た後に友人から『一週間預かって欲しい』と頼まれた事があって、一番上の息子が面倒を見ていた事がある程度だ。長男は当時六歳で、リードを持つ権利を絶対に譲らなくてな。妻が不安がるんで、俺が散歩についていったんだ」
話しながら、萬狩は「ああ、そうだった」と、当時の様子を鮮明に思い出した。