「シェリーちゃん、すっかり夏バテですねぇ」
「そのようだな。小まめに水分と食事はあげるようにしているから、体重に変化もないと獣医は言っていたぞ」
「仲村渠さんが月曜日に『まだ夏バテが続いているらしい』と言っていたので、午前と午後にもマッサージを入れているんですけど、まだ体調が良くならないみたいで、僕は心配です」
「そうか」
萬狩は新聞を読み進めながら相槌を打ち、ちらりと窓側へ目を向けた。日の光に目を細め、疲労感を覚える目頭を揉み解す。最近、シェリーは夜中に目を冷ます事が続いており、昨日も結局、萬狩は深夜三時まで起きていたのだ。
床に横になっているシェリーも、夏バテというよりは、睡眠不足の顔で半ば眠りに落ちていた。それでも、共に早朝五時に目が覚めてしまったのは、互いの老いと、身に染みついた生活習慣のせいだろう。
それを仲西青年は知らないのだ。萬狩は、まぁ仕方がないと思い直した。
「――それはいいんだが、お前が当然のように、早朝にいるのはなぜだ?」
今日は八月の第二週目の木曜日。この日、仲西青年が萬狩宅にやって来たのは、朝の六時半の事だった。萬狩が朝一杯目の珈琲を飲んでいたところ、来訪を告げるチャイムに重い腰を上げて玄関を開けると、そこには早朝を感じさせない溌剌とした仲西が立っており、元気な笑顔で「おはようございます」と告げたのである。
当の仲西青年は、シェリーの身体を揉みほぐしながら朝のニュース番組を眺めており、萬狩の質問に「へぁ?」と間の抜けた声を上げた。
「萬狩さん、とっくに起きていたんじゃないんですか?」
「まぁ起きていたが、しかしだな――」
言い掛けて、萬狩は説得を諦めた。仲西青年特有の、斜め上のマイペースさに慣れつつある自分が、少し嫌だなぁと思いながら、すっかり冷めた珈琲を飲み干した。
「そのようだな。小まめに水分と食事はあげるようにしているから、体重に変化もないと獣医は言っていたぞ」
「仲村渠さんが月曜日に『まだ夏バテが続いているらしい』と言っていたので、午前と午後にもマッサージを入れているんですけど、まだ体調が良くならないみたいで、僕は心配です」
「そうか」
萬狩は新聞を読み進めながら相槌を打ち、ちらりと窓側へ目を向けた。日の光に目を細め、疲労感を覚える目頭を揉み解す。最近、シェリーは夜中に目を冷ます事が続いており、昨日も結局、萬狩は深夜三時まで起きていたのだ。
床に横になっているシェリーも、夏バテというよりは、睡眠不足の顔で半ば眠りに落ちていた。それでも、共に早朝五時に目が覚めてしまったのは、互いの老いと、身に染みついた生活習慣のせいだろう。
それを仲西青年は知らないのだ。萬狩は、まぁ仕方がないと思い直した。
「――それはいいんだが、お前が当然のように、早朝にいるのはなぜだ?」
今日は八月の第二週目の木曜日。この日、仲西青年が萬狩宅にやって来たのは、朝の六時半の事だった。萬狩が朝一杯目の珈琲を飲んでいたところ、来訪を告げるチャイムに重い腰を上げて玄関を開けると、そこには早朝を感じさせない溌剌とした仲西が立っており、元気な笑顔で「おはようございます」と告げたのである。
当の仲西青年は、シェリーの身体を揉みほぐしながら朝のニュース番組を眺めており、萬狩の質問に「へぁ?」と間の抜けた声を上げた。
「萬狩さん、とっくに起きていたんじゃないんですか?」
「まぁ起きていたが、しかしだな――」
言い掛けて、萬狩は説得を諦めた。仲西青年特有の、斜め上のマイペースさに慣れつつある自分が、少し嫌だなぁと思いながら、すっかり冷めた珈琲を飲み干した。