宣言通り、共に昼食を過ごして以来、仲西は、仕事先の上司にお願いして八月は月曜日だけでなく、木曜日も萬狩宅を訪問し続けていた。

 それは、現在の家主である萬狩が、ピアノ教室に通う曜日であるのだが――結局のところそれは言い訳で、シェリーと遊んで過ごしたいからだろう、と萬狩自身は踏んでいる。

 仲村渠は変わらず、月曜日の午前中にシェリーの診察にやってくるが、最近は、その後に茶を飲んでゆくようになった。ちょうど仲西が訪問する頃に「よいしょ」と席を立ち、「じゃあ後はよろしく」と若い弟子に言い聞かせるように去っていく。

 仲西青年は、以前までは午前訪問だったり、午後訪問だったりと時間帯が割りと不定期だったのだが、最近は午前中には必ず来て、午後までゆっくりしていくようになった。

 わざわざ食材や調味料まで買ってきて、仲西は「男の料理ですよ」と自慢げに自前の緑エプロンを身に着け、昼食にミートソースのスパゲティや目玉焼き定食を作ったりする。

 そのせいなのか、萬狩は最近になって、互いの味付けの常識に食い違いが多い事に気付かされた。

 例えば目玉焼きの場合だと、萬狩は醤油、仲西はケチャップだ。缶のポークを焼いてつけているのだから、ケチャップが普通でしょうと仲西青年は自信たっぷりに主張するが、ポーク缶は沖縄特有のものであって、他県には売られていない商品であるので、萬狩はどちらとも言えず話術に負けて悔しい思いもした。

 仲西青年は、どうやら萬狩との味の違いを楽しんでいる節もあるようだった。彼が昼食を用意する時は、テーブルに様々な種類のソースが並んだ。萬狩がどれを手に取るのか、わくわくしている様子が毎回露骨に見て取れる。