仲村渠獣医が帰った後、新たな発注を受けた仲西が、その商品を車に乗せて少し遅れてやって来た。彼は専用のドッグフードとドッグ缶を運び込むと、萬狩に混ぜる割合や保管方法について説明した。

 夜中にシェリーが起きたら、必ず実行しようと意気込んで、萬狩はその日早めに就寝した。

 しかし、老犬に夜中起こされた経験がなかった萬狩は、ふと、彼女は俺をちゃんと起こしてくれるだろうかと気になり、深夜二時頃に一度目が覚めた。

 ベッドの脇を覗くと、シェリーが籠の中で小さな寝息を立てていた。

 萬狩は、額にかいた汗を拭い、白髪混じりの髪をかき上げた。

 日中にも小まめにご飯をあげるようにしているし、彼女はクッキーもよく食べる。だから、そんなに腹は減らない可能性の方が大きいじゃないかと、自分が感じている不安を振り払った。

「別に、俺は余計な心配なんかしていないぞ」

 ぐっと布団を引き寄せて、萬狩は、枕に顔を押し付けた。翌日は早朝の五時前に起きたが、やはりシェリーは相変わらず爆睡していた。

         ※※※

 それから二日ほど経った水曜日の深夜、萬狩は、いつもとは違う異変に気がついて目を覚ました。

 既に日付は木曜日に替わっていたが、枕の上にある時計を見上げれば、時刻はまだ午前の一時過ぎだった。

 彼は浅い眠りの中、啜り泣くような何者かの夢を見ていたから、覚醒した一瞬、それでも耳に聞こえるその声に、自分が夢の続きを見ているのではないかと錯覚した。

 そんなバカな事があるかと己れを叱責し、寝惚けた頭を振って耳を済ませると、冷房機の稼働音に混じって、やはり囁かな音が聞こえていた。

 起き上がり、眠気眼をこすって確認すると、シェリーがベッドに上体を預けるように前足を乗せて、こちらを見ていた。

「なんだ。珍しいな」