萬狩が思わず口にすると、仲西は「こんなに信用が厚い顔をしているのに、不思議なもんです」と首を捻った。

「多分、僕の方が彼女との付き合いが長いから、そこを心配しているんだと思います。僕はちっとも女性にモテないから、安心してくれてもいいと思いません?」
「そこを自分で言い切って、お前は悲しくならないのか……?」
「あッ、僕、木曜日もここに来ますね。なので萬狩さんがピアノ教室に行っている間、シェリーちゃんの事は任せてください!」
「お前俺の話を聞いていない。というか、暇なのか?」

 萬狩は心配になった。仲西は陽気な顔で「僕は今、週に一回の数時間はシェリーちゃん専属ですもん。担当者の特権ですよ」と笑った。

「大丈夫ッ。電話で報告はしますし、それなりにお金をもらっているから、オーナーも文句一つ言わないと思います!」

 そういう店側の事情を、簡単に口にするから信用されないんじゃないのか。
萬狩は、喉元まで出かかった言葉を珈琲で流し込んだ。

         ※※※

 こうして月曜日だけでなく、木曜日も仲西青年が訪問してくれる事になり、三日後の木曜日、萬狩は三回目のピアノ教室は留守の心配もせず自宅を出る事が出来た。

 その日、教室には初めて見る先客がいた。

 ふっくらとした三十代前半ほどの肌の白い男が、耳にイヤホンを付けて怪しい姿勢で必死にピアノと向き合っていた。

 その男は入ってきた萬狩に一度目をやったが、ひどい猫背のまま、再び視線を手元へと戻した。まるで、どの部位にも風船が詰め込まれているような風体の男で、随分背が低いのか、若干靴底が床に届いていないのが、萬狩には少しだけ物珍しかった。

「おはようございます、萬狩さん」

 入って来た萬狩に気付くと、内間が、そう愛想良く声を掛けてきた。彼女は空色のワンピース・スカートに、水玉模様のシュシュで髪をまとめていた。