思い返せば、今では難なく使っているパソコンも、初めて向きあう事になった日は指一本で、キーボードの文字を探しながら打っていた時代があった事を、自分は長い間すっかり忘れていたらしい。
「何事も挑戦が大事です。頑張りましょう」
内間は、そういってピアノ初心者の萬狩を励ました。ピアノや音楽が嫌いになって欲しくないと訴えるように、時間を忘れて没頭していた萬狩に、たびたび休憩を促して肩の強張りを解したりした。
結局、進められたのは曲の出だしを少しだけだった。しかし、萬狩は苦戦を強いられたものの、絶望はしていなかった。彼女が初めに弾いてくれた曲は彼の耳にこびりついており、自分が、その一旦でも奏でられたという達成感はあった。
「萬狩さんは、月曜日と木曜日の講習ですから、次は、来週の月曜日ですね。自宅でも練習が出来るように、こちらの楽譜は差し上げますので、いらっしゃる際に持って来られるといいと思います」
「有り難い。次もよろくお願いします」
「こちらこそ、どうぞよろしくお願い致します」
時刻は、既にシェリーの間食時になっていた。予定よりも時間を押していると気付いて、萬狩は車に乗り込むと一息つく間もなく、自宅に向けて車を発進させた。
車の中でラジオを聞きながら、何故だか脳裏には、内間が奏でてくれた『エーデルワイス』が繰り返し流れていた。
信号待ちの間、萬狩は知らず、リズムを忘れないよう指先でハンドルを軽く叩いていた。過去のあの自宅で、グランドピアノから流れていたであろうメロディーを想像したりもした。
※※※
帰宅して玄関を開けると、そこには、シェリーが座って彼を待っていた。
こんな風に老犬を待たせたのは初めての事で、萬狩は、思わず玄関で立ち止まってしまった。シェリーは、穏やかな眼差しで彼を見上げる。
「何事も挑戦が大事です。頑張りましょう」
内間は、そういってピアノ初心者の萬狩を励ました。ピアノや音楽が嫌いになって欲しくないと訴えるように、時間を忘れて没頭していた萬狩に、たびたび休憩を促して肩の強張りを解したりした。
結局、進められたのは曲の出だしを少しだけだった。しかし、萬狩は苦戦を強いられたものの、絶望はしていなかった。彼女が初めに弾いてくれた曲は彼の耳にこびりついており、自分が、その一旦でも奏でられたという達成感はあった。
「萬狩さんは、月曜日と木曜日の講習ですから、次は、来週の月曜日ですね。自宅でも練習が出来るように、こちらの楽譜は差し上げますので、いらっしゃる際に持って来られるといいと思います」
「有り難い。次もよろくお願いします」
「こちらこそ、どうぞよろしくお願い致します」
時刻は、既にシェリーの間食時になっていた。予定よりも時間を押していると気付いて、萬狩は車に乗り込むと一息つく間もなく、自宅に向けて車を発進させた。
車の中でラジオを聞きながら、何故だか脳裏には、内間が奏でてくれた『エーデルワイス』が繰り返し流れていた。
信号待ちの間、萬狩は知らず、リズムを忘れないよう指先でハンドルを軽く叩いていた。過去のあの自宅で、グランドピアノから流れていたであろうメロディーを想像したりもした。
※※※
帰宅して玄関を開けると、そこには、シェリーが座って彼を待っていた。
こんな風に老犬を待たせたのは初めての事で、萬狩は、思わず玄関で立ち止まってしまった。シェリーは、穏やかな眼差しで彼を見上げる。