萬狩は、昔から弱みを見せる事を嫌っていた。もとより不器用な男ではあったが、大学時代から付き合いのある谷川からいわせれば、一人で数人分の仕事をこなす萬狩だって、一人の人間なのだ。

 睡眠も削って会社に泊まり込み、栄養ドリンクとコンビニの握り飯を片手に、時折、死んだように目を閉じている親友の努力や苦労を知らないでいる部下達を、谷川は憎く思う時もあった。

 萬狩の妻は、確かに谷川が知る女性の中でも厳しい女ではあった。仕事の他に金も持っていたから、一時的な別居騒動も一度や二度ではないし、三十代から「離婚してやる」との言葉もよく聞いていた。

 離婚については、新婚機関が過ぎた頃から既に秒読みだったが、結局のところ、二人の息子は父親である萬狩を責めなかった。

 萬狩は自分自身や人間関係には疎いところがあるから、子に怨まれてはいないという、比較的にも救われる結果を知らないでいるのだ。谷川からしてみれば、それがすごく歯痒いところでもある。

 谷川は、今回の件が萬狩の心身を癒し、彼が抱えている精神面の壁や、問題を解決してくれる事を期待していた。

 谷川は、萬狩と出会えてから人生が楽しくて仕方がなかったのだ。素晴らしい女性とも巡り合え、結婚まで出来たのも萬狩のおかげだと思っている。不器用で自分にも疎い親友は、仕事に青春をつぎ込んだが、彼が今後の人生を楽しめるような日々を、谷川は誰よりも一番に願っていた。

 萬狩は友人の心境も知らず、その優しげな眼差しを見つめ返しながら、興味もなさそうに相槌を打った。そんな馬鹿な話あるものか、と冗談口調で切り返し、お得意の嘲笑を片方の口角に刻んだりもした。

 しかし、嘘をついた事のない友人の話は信頼もあり、萬狩は、軽い気持ちなりにきちんと話は聞いていた。谷川は、面白い世間話を聞かせるような軽いノリで、最後はこう話した。