萬狩は、話の内容から、恐らく彼の父親は唐突に死んでしまったのだろうと推測した。心のありようは人それぞれで難しいものがあるが、仲西青年は確かに、父親を愛して、尊敬してもいたのだろうという事だけは、語る彼の雰囲気から分かった。

 人はいつか死ぬ。萬狩も数年前に、会社創設時から付き合いのあった、尊敬していた人生の先輩を亡くした。彼の遺体が火葬場に運び込まれ、専用の焼却炉に入れられるのを見届けた際、これが死ぬという事なのだろうなと、漠然とそう感じたのだ。

 ヤドカリの観察を十分にし終えたシェリーが顔を上げ、また歩き出した。萬狩は、数秒ほどで思考を中断すると、仲西青年の横顔に声を投げかけた。

「もう少し先まで、歩いてみるか」

 すると、仲西青年は我に返ったように口をつぐみ、それから申し訳なさそうに微笑んで「すみません」と謝った。

「なんか勝手に色々と喋っちゃいました……。そうですね、釣りをしている人達を冷やかしにでも行きましょうか」
「なんだそれは」

 変な奴だなぁ、と萬狩がぶっきらぼうに言って歩き出すと、仲西は「お喋りするって事ですよ」と空元気に声を張り上げた。音を立てながら水中を歩き、手で水面を払って水飛沫を上げる。

「ねぇ萬狩さん、写真を撮ってもいいですか?」
「構わんが、急にどうした」
「シェリーちゃんの散歩って久しぶりだし、仲村渠(なかんだかり)さんにも見せてやろうと思って」

 答えるや否や、仲西はブルーシートの元へ駆けると、紙袋の中からデジタルカメラを取り出して戻ってきた。

「これ、現像がすごく楽でスピーディーなんですよ」
「CMで聞いたような台詞だな」
「CMの宣伝文句ですからね」
「なるほど」

 というより、お前らは写真を見せ合うほど仲がいいのか?

 萬狩が、妙な老人獣医と青年の組み合わせを考えている間に、仲西は勝手にシャッターを切っていた。