シェリーが足を止めて、砂場を歩いていたヤドカリに鼻を寄せた。萬狩は立ち止まるついでに仲西を振り返ったが、掛ける言葉は、まだ探せないでいた。

「どうしてなんですかね。似てはいないはずなんですけど、萬狩さんって、なんだか父さんみたいな、懐かしい感じがするというか」

 そう語る眼差しは、ぼんやりとしていた。仲西青年は、自分でもよく分からないという疑問を、海に投げかけているようにも見えた。

「僕の父さんが、昭和染みた人だったせいでしょうか。父さんはビールが好きで、毎日飽きずに飲んでいて、酔うと嫌な人間みたいになるから、僕は父さんの事が苦手だったけど、酔っていない父さんの事は嫌いじゃなくて……。あの人は、僕が五歳の頃に亡くなったんです。それなのに僕は、未だに彼を忘れられないでいるんです」

 多分僕だけが、彼を忘れられないでいるんだ、とポツリと呟かれた。

 アルコールが入っていない時は、決して暴言を吐かなかったし、口数の少ない男だったのだと、仲西は思い出すように話した。今思い返せば、父は子供に不慣れな人で、不器用な男だったのだろうと思うのだとも語った。

 大抵はお酒を飲んでいたから好きじゃなかったけど、不思議と心の底から嫌いにはなれなかった。母と喧嘩ばかりしていた父がいなくなって、どこかほっとしている自分がいたのに、思い出すたびに、もう一度会いたいと願った……

 仲西は、つらつらと思い出を語った。

「変な話ですよね。僕は父さんがそこまで好きじゃなかったのに、あまり一緒にいられなかった事を後悔してもいるんです。どんなに嫌な面を持っていたとしても、僕にとって、彼はたった一人の父親で、それは変えようもない事実で……もしかしたら僕は、幼いながらに、あの人の全てを好きになりたかったのだとも思うんです。彼の一人の子供として、血の繋がった父親を尊敬して、愛していたのかもしれません」