一同の歩みは遅くなっていたが、シェリーは押し寄せる波を眺めながら、笑うような顔で飽きずに歩き続けていた。時折、萬狩と仲西が後ろから付いてきているか確認するようにリードの先を振り返り、尻尾を振ると海の方へ目を戻す。
萬狩も、つられるように波打ち際を見やった。
きっと彼女は、日差しを受けてキラキラと輝く水が、不思議でならないんだろうなと、そんな事を思った。離れていく影に気付いて横目に確認すると、波をかき分けるように歩いていた仲西青年の足が、遅くなっていた。
「実は僕、母との仲がちょっと悪くて、成人してからは一人暮らしなんです」
しばらく歩いた後、仲西が、日差しが反射する足元の波を眺めやり、思い出すように語り出した。
「僕の両親は、どちらかというと人混みが嫌いで、――随分昔に、数える程度だけ、こうして静かな海を散歩した事を覚えています」
海からは遠い家だったけど、高台に家があったので毎日海は見えたのだと、彼は静かに語った。
ちらりと盗み見た仲西の横顔は、不安を覚えるほどとても穏やかで、萬狩は「そうか」とだけ相槌を打った。
「母さんとの思い出はあまりないけど、父さんとは朝や夕方に、よく港を歩いていました。どこかの小さな港だったとは思うんですけど、今の実家に引っ越す前に、父が僕の手を引いて歩いてくれていた事があって、とても好きな場所だったのに、僕は今でもその場所が分からないんですよ」
「そうか」
「時折、無性に懐かしくなって、思い出した時に探してみるんですけど、やっぱり見つからなくて。二十年以上も前の事だから、多分、もうなくなってしまった漁港なんじゃないかって、友達はそう言ってました」
懐かしいなぁ、と仲西青年が地平線の方へ顔を向けた。
萬狩も、つられるように波打ち際を見やった。
きっと彼女は、日差しを受けてキラキラと輝く水が、不思議でならないんだろうなと、そんな事を思った。離れていく影に気付いて横目に確認すると、波をかき分けるように歩いていた仲西青年の足が、遅くなっていた。
「実は僕、母との仲がちょっと悪くて、成人してからは一人暮らしなんです」
しばらく歩いた後、仲西が、日差しが反射する足元の波を眺めやり、思い出すように語り出した。
「僕の両親は、どちらかというと人混みが嫌いで、――随分昔に、数える程度だけ、こうして静かな海を散歩した事を覚えています」
海からは遠い家だったけど、高台に家があったので毎日海は見えたのだと、彼は静かに語った。
ちらりと盗み見た仲西の横顔は、不安を覚えるほどとても穏やかで、萬狩は「そうか」とだけ相槌を打った。
「母さんとの思い出はあまりないけど、父さんとは朝や夕方に、よく港を歩いていました。どこかの小さな港だったとは思うんですけど、今の実家に引っ越す前に、父が僕の手を引いて歩いてくれていた事があって、とても好きな場所だったのに、僕は今でもその場所が分からないんですよ」
「そうか」
「時折、無性に懐かしくなって、思い出した時に探してみるんですけど、やっぱり見つからなくて。二十年以上も前の事だから、多分、もうなくなってしまった漁港なんじゃないかって、友達はそう言ってました」
懐かしいなぁ、と仲西青年が地平線の方へ顔を向けた。