二人の息子は利口で賢く、誠実だった。けれど萬狩は、彼らの好きな食べ物も、熱中している事柄も、仕事やプライベートな付き合いに関しても知らなかった。

 それに気付かされたのは、離れたこの土地で暮らし始めてからだ。萬狩は、これまで自分は、家族として会話をしてきただろうか、とようやく疑問を感じ始めてもいた。

「お前、兄弟はいるか?」

 何気なしに問い掛ければ、仲西がきょとんとした顔を向けて、それから幼い少年のような笑みを浮かべた。

「僕は一人っ子ですよ」
「俺には二人子供がいて、どっちも男なんだが……」
「へぇ。いくつですか?」
「二十五と、二十八だ。お前より少し年下だな」

 答えると、仲西は「へぇ」と相槌を打ちながら、食事を終えたシェリーの首を片手で器用に撫で始めた。

「じゃあ、ジュースを片手に同じアニメを語れますねぇ」
「おい待て。どこでアニメの話に繋がった?」
「え、同じ世代なんでしょ? 朝と夕方に放送されていたアニメの黄金時代ですし、結構盛り上がるじゃないですか」

 まるで自信たっぷりに仲西は言った。

 うちの息子達はどうだっただろうか、と萬狩は少しばかり考えた。幼少期から活発に外を走り回っていた息子達は、小学校の高学年からはニュースや勉強番組は見ていたが、アニメの話題はなかったように思う。

 萬狩は、成人した彼らとの少ない会話も思い起こしてみた。食卓やリビングでの話題のほとんどは、新聞やニュース番組からのもので、どれも仕事や生活に関わるものだった気がする。

「……息子とは、経済の話をした事はあるが」
「それって面白いんですか?」

 僕には分からないなぁ、と仲西は困ったようにぼやいた。

「漫画の大人買いとか、アニメの大人借りとかはしないタイプの方ですか?」