「萬狩さん、萬狩さん」
「なんだ。名前を二回も呼ばずとも聞こえている」
「うん、そうなんですけど」

 顔を向けると、そこには、珍しく神妙な顔付きをした仲西がいた。

 一体なんだろうか、と萬狩が怪訝に思いながら彼の返答を待っていると、仲西が何かを確認するようにもう一度「うん」と肯き、真面目な顔でこう言った。

「こうして並ぶと、父と息子が犬を散歩している感じに見えて怒られないと思うんですよ。沖縄の人って、結構そういうところに寛大な人が多いから」
「お前、ずっとそんな事を考えていたのか?」

 先日の下りを思い出し、萬狩は頭を抱えた。少しばかり彼を心配した自分がいた事も認めたくなくて、「お前は馬鹿か」と舌打ちした。

「親子設定には無理があるぞ。ああ、絶対に無理だとも」
「そうですか? 眉間に皺を寄せたら、ちょっと似ていませんかね?」
「お前、俺に対して段々遠慮がなくなっているんじゃないか?」

 萬狩は、部下を叱るつもりで顔を思い切り顰めて嗜めたのだが、仲西は「えへへ」と表情が緩みっぱなしだった。

「だって、萬狩さんって優しいんですもの」

 俺が、優しいだって?

 萬狩は反論しようとしたが、ふと思い出して、口をへの字に結んだ。

 そういえば、昔、妻にそんな事を言われた事を思い出した。彼がそれを否定するたび、彼女は「あなた、顔に似合わず優しいのよねぇ。嫌になっちゃうわ」と言っていた。

 厳しそう、近寄り難い、話し掛け辛い。

 それが、萬狩自身が知っている、他人から自分への評価だった。

 別れた妻についていった息子達のうち、次男の方が「最後まで父さんの考えている事が分からなかったな……」と申し訳なさそうに言った言葉を、なぜか印象的に覚えている。それは萬狩も、年月を経て妻や息子達の事が、分からなくなっていたからだろう。