「安心して下さい。僕は泳げないので、素足を海に少しつけるだけで満足できます!」
「すぐ近くに海があるのに、お前は泳げないのか」
「泳げないです。でも沖縄じゃ珍しい事でもないですよ。近くにあるからこそ、泳ぎにいかない人が多いんです。まぁ、スイミングスクールに通っていた子は別だけど」
「はぁ、なるほどな……」

 どうせ暇なのだから、そっちで勝手に予定を立てればいい、と萬狩は投げやりに折れた。仲西青年は「任せて下さいッ」と意気込み、タオルからドライヤーへと持ち替えて、シェリーに「楽しみだねぇ」と声を掛けて乾かし始める。

「近くに海岸があるので、そこに行きましょうよ、萬狩さん。出発は午前六時頃がいいですかね」
「やけに早いな」

 萬狩が不思議に思って尋ねると、仲西青年は、「えへへ」と幼い顔で笑った。

「砂浜まで犬を入れていいのか分からないので、人のいないうちにって事ですよ」
「…………」

 つまり、確信犯というか――そういう事なのだろう。

 萬狩も遅れて気が付き、怒られるのは年上である俺だろうな、と憂鬱になった。しかし、萬狩はふとシェリーを見やって、一つの事に気付いた。

「そういえば、こいつは首輪をしていないようだがリードはどうやって繋ぐんだ?」
「しまった……!」

 仲西が、途端に「どうしよう」とうろたえ出した。

「そういえば、前の飼い主さんの立派な首輪、散歩した時に僕が壊しちゃったの、すつかり忘れてましたッ」
「なんだ千切れたのか?」
「いいえ、金具の部分が割れてしまったんです。なんとかっていうブランドの皮製のもので、こう、ダイヤの飾り物がついていて、キラキラした感じの装飾品のある、アンティークチックな奴なんですけど」
「……一体そんな高価な代物を、どうやって壊したというんだ?」