他に予定もないのだ。今日で全部やってしまおう。
そう考えた萬狩は、「この野郎」と意気込んで、スコップを土に刺してはひっくり返す作業を続けた。
シェリーは伸び始めた雑草に寝転んでおり、時折、空気も読まず萬狩にクッキーを催促しにやってきた。それは忌々しくも思えたが、彼も、ついでの煙草休憩がてら土で汚れた軍手を脱ぎ、手を洗ってから老犬にクッキーをやった。彼女が脱水症状になっても困ると思い、犬用の水入れもしっかりテラス席の日陰に置いていた。
夕刻近くになって、ようやく畳み二畳分ほどのお手製の花壇が仕上がった。
煉瓦で囲われた花壇の中に、ホームセンターで購入したパンジーを色ごとに揃えて植えてみると、黄色、紫、白と途端に殺風景だった庭先が少しばかり鮮やかになった。
「まぁ、良いもんじゃねぇか」
汗だくで疲れ切った萬狩は、煙草を吹かしながら、改めて花壇を眺めて感慨深く煙を吐き出した。
すると、足元に座っていたシェリーが、まるで賛同するかのように「ふわ」と小さく鳴いた。萬狩が目を向ければ、彼女も静かに花壇に並ぶ花を眺めるよう顔を向けている。その眼差しは、どこか誇らしげでもあった。
「なんだ。お前は花が好きなのか?」
声を掛けた萬狩は、ふと思い出した事があり「そういえば」と口にしながら、額から落ちてくる汗をタオルで拭った。
「俺の元妻も、花が好きだったな。女ってのは、みんなそういうのが好きなのかね」
萬狩の妻は、色取り取りの花や宝石を好んだ。付き合い始めの当時、彼が何気なく送ったカランコエの苗を、彼女は結婚するまで大事に育てていたものだ。
何が気に入っていたのかは分からない。
萬狩は、独り言のように続けた。
「俺は男だから、花言葉なんて知らなかったんだけどな。あいつは、カランコエの花を嬉しそうに見つめて、『素敵な花言葉を持っているのを知っているくせに』って、そう言って笑うんだ。マイホームを購入した時なんか、テラスにカランコエのプランターを置いて、よく世話をしていたっけな」
そう考えた萬狩は、「この野郎」と意気込んで、スコップを土に刺してはひっくり返す作業を続けた。
シェリーは伸び始めた雑草に寝転んでおり、時折、空気も読まず萬狩にクッキーを催促しにやってきた。それは忌々しくも思えたが、彼も、ついでの煙草休憩がてら土で汚れた軍手を脱ぎ、手を洗ってから老犬にクッキーをやった。彼女が脱水症状になっても困ると思い、犬用の水入れもしっかりテラス席の日陰に置いていた。
夕刻近くになって、ようやく畳み二畳分ほどのお手製の花壇が仕上がった。
煉瓦で囲われた花壇の中に、ホームセンターで購入したパンジーを色ごとに揃えて植えてみると、黄色、紫、白と途端に殺風景だった庭先が少しばかり鮮やかになった。
「まぁ、良いもんじゃねぇか」
汗だくで疲れ切った萬狩は、煙草を吹かしながら、改めて花壇を眺めて感慨深く煙を吐き出した。
すると、足元に座っていたシェリーが、まるで賛同するかのように「ふわ」と小さく鳴いた。萬狩が目を向ければ、彼女も静かに花壇に並ぶ花を眺めるよう顔を向けている。その眼差しは、どこか誇らしげでもあった。
「なんだ。お前は花が好きなのか?」
声を掛けた萬狩は、ふと思い出した事があり「そういえば」と口にしながら、額から落ちてくる汗をタオルで拭った。
「俺の元妻も、花が好きだったな。女ってのは、みんなそういうのが好きなのかね」
萬狩の妻は、色取り取りの花や宝石を好んだ。付き合い始めの当時、彼が何気なく送ったカランコエの苗を、彼女は結婚するまで大事に育てていたものだ。
何が気に入っていたのかは分からない。
萬狩は、独り言のように続けた。
「俺は男だから、花言葉なんて知らなかったんだけどな。あいつは、カランコエの花を嬉しそうに見つめて、『素敵な花言葉を持っているのを知っているくせに』って、そう言って笑うんだ。マイホームを購入した時なんか、テラスにカランコエのプランターを置いて、よく世話をしていたっけな」