シェリーを構う必要がなくなった萬狩だったが、彼がご飯皿に入れるドッグ缶の量は、以前に比べると増えた。

 残してしまったのなら、腐らないうちに回収して破棄し、皿を洗えばいいのだ。既定の食事時間の他にも、小まめに間食をあげるようになったのは、老犬に肉をつけようと考えたからだった。

 そのせいだろうか。雨の一件以来、シェリーは、萬狩の後ろをついて回るようになった。

 リビングのソファに腰かけて本を読んでいると、ふてぶてしくも萬狩の足を踏むように横になったり、と段々と遠慮もなくなってきた。彼は「このクソ犬」と思ったものの、そのおかげで、彼女の体重が思うほど増えていない事に気付いた。

 どうにか方法がないかと考えていた萬狩は、町で食糧を調達した際、ペットクリニックと看板のかかった店を見付けて立ち寄ってみた。

 老いた犬の身体に良いものはないかと相談したところ、栄養価も高いからと、柔らかいクッキータイプの犬用おやつを勧められ、まずは試しにと一袋購入してみた。

「もっと太らないと、まるで俺がダメな世話役みたいだろう。だからだぞ」

 萬狩が独り言をすれば、シェリーは「ふわ」と小さく答えた。クッキーを与えてみると美味そうに食べてくれたので、とりあえず、朝と夜に一枚ずつあげようと考えて、萬狩は、それも日課に加える事にした。

 シェリーは、クッキーを与え始めてからというもの、金魚の糞のように萬狩の後ろをついて歩くようになった。食事の時間外にも関わらず、彼の足をつついて「ふわん、ふわわ」と、犬とは思えない様子で上機嫌に鳴く。

 萬狩は当初、クッキーの件が脳裏に浮かばず、相当腹が減っているのだろうかと思って食事を用意したのだが、見向きもされない事に疑問を覚えた。トイレシートが汚れているのかと確認するとキレイで、ますます訝しげに思った。