「――……しょせん、犬は犬だろう」

 庭の草刈りで疲れているのだろう。萬狩は、その日は早めに就寝する事にした。
萬狩がベッドに入ると、シェリーも当然のような顔で自分の籠に入って丸くなった。どうやら彼女は、家主が早く寝付けば自分も早く寝る、という生活リズムを持っているらしい。

 萬狩が不思議だったのは、彼が友人から言われていた犬の寝付きの特性を、シェリーが持っていなかった事だった。

 シェリーは寝言も上げなければ、夢を見ながら足をばたつかせる動きもしない。夜中にご飯をねだって起こしてくる事もないので、物音に敏感な萬狩も、こちらに移住してからというものよく眠れていた。


 その日の夜、萬狩は適度に疲労したおかげで心地良い眠りに落ち、やけに鮮明な夢を見た。


 老いた女主人が、西洋風のワンピースドレスを着て、整えられた庭先に立っている夢だった。リビングから見える位置に家庭菜園が設けられ、美しい花壇まで造られている。

 夢の中で、萬狩はそこに立つ彼女のその後ろ姿を眺めていた。彼女の横には、あの老犬が誇らしげに胸を張って座っている後ろ姿まであった。

 素晴らしい庭だったような気がするが、残念な事に、目が覚めると風景も霧散してしまった。

 ただ、夢の中で風になびいていた白いワンピースと、くるくる回るレースの白い傘。そして、ふわり、ふわりと、右へ左へと楽しげに動くふさふさとした若々しい犬の尾が、萬狩の中に印象的に残った。