萬狩が頭を抱えている間に、早々に友人の弁護士と移動して、ノンアルコールの缶ビールを開けた仲村渠が、「萬狩さん」と呼んだ。

「さっそく芋を焼きましょう。私、朝ご飯を抜いてきたんですよ」
「おい。相変わらず自由な人だな」

 萬狩は思わず口にした。

 騒々しい中に放り込まれている仔犬を見やれば、利口の欠片も見えない楽しげな様子で、仲西青年に振り回されていた。見れば見るほど、子犬の表情は呑気で阿呆っぽさがあり、笑い仲西青年と似ているような気さえしてくる。

 けれど何故か、シェリーがいなくなった時から胸に感じていた寒いような空虚感が、ほんのりと和らいだような気がした。

「――やれやれ。とりあえず、名前を決めないとなぁ」

 全く、面倒な事になっちまったな。

 萬狩は、面倒そうな顰め面を作って歩き出した。彼のその口角が笑っている事を、彼以外の人間は皆知っていた。

 里親に困っていた知人の笑顔と、まんざらではなさそうな萬狩の様子を見た酒井が、どこか満足そうに肯き、「これにて一件落着」と口の中で呟いたのだった。