仲西の後ろから、のんびりとやって来た仲村渠と古賀カップルも、仔犬の可愛さを称賛しつつ、それぞれ勝手に名前を上げ始めた。

「萬狩さん、ナカンダカリから取って、『カンダ』はどうでしょう?」
「私、『アユム』君も可愛いんじゃないかと思います」
「ぼ、ぼくとしては『ポン助』とか……」
「お父さん、カタカナが恰好良いと思いますよ。『ストレード』にしましょうよ」
「『ジョセフ』」

 次々に名前の候補案が上がる中、先にその騒ぎから離脱した酒井が、「そういえば」と、別件を思い出したように仲村渠に声をかけ、二人で話し始めた。

 畜生、収集がつかなくなってきたなッ。

 一人で奴らの暴走を止めるなんて不可能だ。そう頭を抱えた時、萬狩は、黒塗りの車から遅れて降りて来た女性に気付いて顔を上げた。

 そういえば、酒井は夫婦での参加だったなと、萬狩は遅れて思い出した。酒井夫人は、背丈の低いふっくらとした笑顔の似合う女性で、萬狩の近くに来るなり、にっこりと微笑んでこう言った。

「賑やかですわねぇ」

 申し遅れました、酒井の妻ですわ、と彼女はスマートに名乗った。

 この状況で悠長に自己紹介をされ、恐らく奴らと同類だと悟って、萬狩は、とうとう頭を抱えた。仲西と仔犬が煩過ぎて、翔也が兄に向かい「ほら、来て良かったでしょう?」と言う声と、「うむ」と無表情に肯き返す和也の様子を見逃した。

 萬狩の頭の中は、一気に忙しくなった。今晩から共に暮らす事になってしまった仔犬を迎えるにあたって、必要な物を頭の中で思い描く。

 ちょっと待て。必要なものはだいたい分かるが、俺はそもそも仔犬を育てた事はないぞ。

 そう考えたところで、萬狩は、そういえばここには専門家が二人もいて、今も犬を飼っている弁護士と、飼育経験のある西野もいる事に気付いた。