「あなたの家は、広い。ぐだぐだ言わずに、親切心で受け取りなさい」

 傲慢とも思える口調で、酒井は、萬狩の手に仔犬を持たせた。

 押しつけられた仔犬は、両手で持つと、その小ささが体重からも容易に伝わってきた。手も足も短く、勢い良く振られている尻尾も短い。萬狩が知っている犬とは、まるで違う生き物のように思えた。

 翔也が「良かったじゃないですか、お父さん」と手を叩いた。

「早速名前を決めましょうよ」
「ツトム」

 萬狩と再会の言葉さえ交わしていなかった和也が、仔犬を見つめたまま、唐突に間髪入れずそう言った。

 萬狩は、二人の息子達を苦々しい思いで睨みつけた。

 庭に視線を向ければ、仲村渠も仲西も西野も、まるで反対意見はないという表情だ。常識人の古賀だけが、何か言いたげな眼差しで「大丈夫なんですか」と萬狩を見守っている。

 それはそうだろう。相手は生物なのだ。いきなり手渡されて、はいそうですか、と簡単に決められるものではない。

 とはいえ、萬狩は両手で仔犬を抱えたまま、ひとまずは二人の息子達に視線を戻して、父親としてしっかり嗜めた。

「そもそも、お前らは、どこでその順応性を養ったんだ。ちなみに、ここには『ツトム君』がいるから無理だぞ。――付けるんなら他の名前にしろ」

 萬狩が唇を尖らせてそう言った途端、仲西が「飼うんですね!」と喜び飛び跳ねた。彼は「じゃあ『アレクサンドリア』!」と言いながら駆け寄って来て、萬狩から仔犬を取り上げた。

「うわぁッ、ちっちゃい! 可愛い!」
「おい、こら。仔犬を振り回すんじゃない」

 若干慌てた萬狩の言葉も聞かず、仲西青年は、初対面の和也と酒井がいる事も忘れたように、仔犬を両手で抱えて回り出した。すると、仔犬は何が楽しいのか、抱えられてぐるぐると回されたまま、甲高い声で合唱のように鳴き出した。