酒井が手に持っていたのは、ペット用のピンク色の籠で、そこからは、ひっきりなしに甲高い鳴き声が聞こえていた。

 萬狩は、久しぶりに嫌な予感を覚えて、先に境へ声を掛けた。

「あの、酒井さん、このたびはどうも――」
「萬狩さん、これをどうぞ」
「は? いえ、なんだか犬らしい鳴き声がするのですが」
「仔犬ですよ、聞けば分かるでしょうに」

 酒井は、萬狩の台詞を遮るように淡々と述べた。籠を下に置くと、萬狩の返事も聞かないまま、中から一匹の仔犬を取り出して、無造作に彼の前に突き出した。

 それは、シェリーと同じコリー犬だった。膨れた腹の下を見れば、雄犬であると分かった。それはあどけない顔で萬狩を見ると、「きゃん!」と、思わず耳を塞ぎたくなるほどの声量で鳴いた。

 萬狩が唖然としていると、酒井が眉一つ動かさずこう言った。

「シェリーとは兄弟だった犬と、血の繋がりのある仔犬です。先月に産まれました。あなたが面倒を見て下さい」
「いや、あの、突然過ぎて困るんだが…………というより、言い方が決定事項なのは、おかしくないか……?」

 萬狩は、唐突過ぎて頭が回らなかった。

 何を考えているのかも分からない酒井と、彼に片手で首根っこを掴まえられ、ぶらさげられている仔犬へ、何度かゆっくりと視線を往復させた。

「ちょうど里親探しに困っていた家族だったものですから、欲しい人がいると言ったら喜んでくれました。感謝の気持ちにと、ドッグフードをいくつかもらっております」
「既に断れないレベルだな」

 なんで決定事項のりように勝手にもらってくるんだ。こいつも、仲村渠や仲西同様、人の話も意見も聞かないタイプなのか?

 すると、呆けたままの萬狩に、酒井が張りついた無表情のまま、ぐっと仔犬を押しつけた。