翔也もそれなりに身長はあるが、和也は更に拳一個分高い背丈をした、すらりとした体躯の表情変化の乏しい美丈夫で、仲西は開口一番「格好良いですねぇ!」と評し、ストレートに正面から言われた和也が、僅かに眉根を寄せた。

「格好良いなぁ。どう見たって、萬狩さんとは似てないんですもん!」
「おい、どういう意味だ。俺の息子だといっただろうが」

 萬狩は思わず、少し緊張していた事も忘れて、仲西の後ろ襟首を掴まえて和也から引き離した。萬狩も、同世代の男達の中では背丈がある方だったが、こいつはそれを忘れているらしい、と苦々しく思った。

 改めて長男と向かい合うと、緊張が戻って来た。和也とは離婚以来だったので、萬狩が、どう声を掛けていいものかと悩んでいると、翔也の方が先に口を開いた。

「父さん、お久しぶりです。飼っていたという犬の事は、仲西さんから聞きました。会えないのが残念です」
「そうか……。あいつは、利口で賢い犬だった」
「うん、そう聞いています」

 翔也が、見慣れない父の様子を感じ取って、ぎこちなく笑顔を作った。

 その時、黒塗りの普通乗用車が、彼の自宅に入ってきて駐車場に停まった。

 そこから降りてきたのは、先日に顔を会せたきりだった酒井弁護士で、彼は助手席から妻が降りてくるのも待たず、後部座席から一つの籠を取り出して、相変わらずの仏頂面で足早に歩き、萬狩の前に立った。

 萬狩の新しい住居を見やっていた和也が、老人にしては背丈のある酒井に気付いて、疑問府を浮かべるように眉根を寄せつつ「どうも」と会釈した。酒井の方もようやく彼に気付いた様子で、どこの誰かも知らぬといったように眉を潜め、「――これは、どうも」とつっけんどんに言い返した。