帽子を着用してはいたが、六月に入ったばかりにしては直射日光がやたら眩しくて、暑苦しさを感じた。

 陽が傾くに従って、汗まみれになった肌を蚊が刺し始めた。屈んでの作業は腰にも響き、取る水分がすべて体外に放出されているように思えるほどの汗をかいた。

「沖縄は、暑いなあ」

 ようやく一通りの作業を終えたのは夕刻で、萬狩は、堪らず冷房機を稼働させた。

 部屋内の生温かい空気が出ていくのを待ちながら、一人でやりとげた達成感のままに縁側の近くに置いたテラス席から庭を眺め、ビールを飲んだ。

 茜色に染まる原っぱを冷静に眺めてみると、あちらこちらと刈った草の高さが違う事や、切り残し雑草がある事に気がついたが、まぁ些細な事だろうと自分を慰めた。初めてにしては、上出来だと思う。

 ふと萬狩は、無駄にも広く思えるこの庭を、前家主がどのように活用していたのか気になった。

 手入れには勿論金はかかるだろうし、小屋の一つも建てなかったという事は、きっと、それなりに利用価値はあったのだろう。とはいえ、一体何に活用していたのか?

 考える彼の傍らに、シェリーが腰を降ろした。彼女は先程まで、雑草が詰められた袋を抱えた萬狩が、庭と自宅の前を往復する様子を木陰から眺めていたのだ。

「なぁ、お前は――」

 何事かを犬に話しかけそうになった萬狩は、ふと我に返り、口をつぐんだ。
そもそも彼女は犬なのだから、言葉が通じる相手ではないし、共感や提案の一つが返ってくるわけでもない。

 いくら一人暮らしが続いているからといって、どうして俺は、彼女が以前の暮らしの様子を知っているなんて、そんな想像をしてしまったのだろう?