ねだるような犬の鳴き声に、萬狩は浅い眠りから覚醒した。

 つけられたままのテレビでは、深夜のニュース番組が始まっていた。

 壁に掛かっている時計を見て、萬狩は自分が、二時間もソファに座り続けていた事を知った。腰の痛みに顔を顰めながら顔を向けると、座る彼の横にシェリーが両手をついて、「くぅーん」と珍しい声で鳴いていた。

 萬狩が「どうした」と言葉を掛けると、シェリーは、同じ声の調子で数回鳴いた。

 クッキーを見せても食べようとはしない。萬狩が、遠慮がちに手を伸ばして頭を撫でてやると、ようやく落ち着いたように鳴くのを止めた。

 彼女は夜も食事が細かったので、腹は減っているはずだ。

 萬狩はそう考えて、老犬が特に好いていた犬用の柔らかいペットフード缶を開けて、彼女のご飯皿に盛った。先程までゆっくりと歩けていたはずのシェリーの足取りは、すっかり重くなっていた。

 彼女は、確実に弱っていた。

 萬狩の、ご飯皿を置く手が僅かに震えていた。

 彼が「ご飯だぞ」といつものようにぶっきらぼうな口調で言えば、シェリーは、いつものように尻尾を振って食べ始めたが、結局は半分も食べ切らないうちに満足そうな顔をした。

「俺は、同情なんてしない。お前の介護もするつもりはない」

 彼はシェリーに言い聞かせながら、頭の中では、既に寝室から毛布と彼女の籠を取って持ってくる算段を立てていた。寝室は暖房をつけても、こちらの部屋より寒いのだ。

 萬狩がリビングを出て行こうとすると、シェリーがまた「くぅーん」と悲痛な声で鳴き始めた。

 いなくなる事を恐れるような声に、萬狩の胸が締め上げられた。とにかく彼女を不安がらせないよう、彼は、彼女にこう言い聞かせた。