萬狩と古賀は、交互にピアノを弾いた。

二ヶ月とはいえ、古賀とは同じピアノ教室にいて練習を聞かれている仲である。萬狩が、やけくそになって弾けば、彼はシェリーと共に床に座った状態で、「お上手ですね」と萬狩を褒めたりした。

        ※※※

 シェリーの食欲が戻らないまま、夜を迎えた。

 午後六時過ぎに、宣言通り仲西が買い物袋を下げてやって来て、古賀の指導のもと、キッチンに立って海老ピラフが作られた。

 不器用な仲西青年が作った海老ピラフは、何故か、ケチャップ風味に仕上げられていた。彼は古賀が止めるのも聞かず、好きなソースだからという理由でそれを投入したようだ。

 それに対して、一人暮らしが長く料理が得意だと、控えめに口にしていた古賀のジャガイモコロッケは、確かに萬狩が舌を巻くほどに美味かった。

 すっかり深い夜に包まれた外の世界は、手がかじかむほど気温が下がっていた。
食事を終えた頃、萬狩が煙草を吸いに庭に出ると、シェリーに続いて出て来た仲西が「寒いです」と子供のような文句を言った。じゃあ部屋に戻ればいいだろうと萬狩が言い返せば、戻りたくないですと意地を張る。

 夜空には、笑うような小さな月が浮かんでいた。仲西が、じっとしていると凍えそうだ、と大袈裟に言って体操を始めたそばで、古賀が呆けた顔で夜空に見入っていた。何度見ても見飽きないのだと、古賀はそう口にした。

 それからしばらくもしないうちに、古賀が、来年辺り中部に部屋を借りる事で落ち着きそうだ、と思い出したように語り出した。西野の希望でペット可能の物件を探していたところ、家賃も安く広い部屋を、彼女の会社の知人伝手で紹介されたらしい。