翌日の金曜日、萬狩は夜明け前に目を覚ました。

 いつもは静かなはずの室内に、一つの違和感を覚えて目を向ければ、籠の中で眠るシェリーの呼吸が、まるで軽い運動後のように速くなっていた。

「どうした」

 そう問い掛けて、遠慮がちに彼女の上下する腹部辺りに触れてみると、呼吸は速くなっているのに体温は低かった。

 シェリーは舌を出しており、けれど相変わらず呑気そうな顔で萬狩を見つめ返して、朝の目覚めを告げるように「ふわ」と少し掠れた声で鳴くのだ。

 ぐっと前足に力を入れ、シェリーは、のそりと立ち上がった。気に掛ける萬狩の足元に、普段のように並んで歩き、自分の足できちんとリビングまで移動する。けれど朝食は少量しか食べず、お気に入りのクッキーを一枚胃に収めた後は、ストーブの前で丸くなった。

 萬狩は、リビングで過ごしながら、しばらく彼女の様子を見つめていた。自分が彼女の視界から消えてしまわなければ、シェリーが無理に動かない事を知っていたから、新聞も取りに行けないまま過ごした。

 珈琲を三杯まで飲んだところで時間を確認し、今なら起きているだろうと考えて、萬狩は、仲村渠(なかんだかり)に連絡を入れた。仲村渠は、「すぐに向かいます」と電話で答え、二十分も待たず仕事着でやって来た。

 仲村渠獣医は、シェリーを慎重に診察した後、萬狩に向き直って申し訳なさそうな顔でこう告げた。

「必要な薬は投与させて頂きましたが、彼女は老衰なのです。気休め程度だと思って下さい」
「もう、そろそろなのか……?」
「恐らくは……。場合によっては、少し体調が悪いだけで、明日には元気になっているかもしれないし、これまでと同じように、なんでもない事なのかもしれません」