シェリーをブラッシングする仲西の手は、優しく労わるように動いていた。話しながらも、どこか楽しく笑う仲西の瞳は、ずっと老犬に向けられたままだ。
萬狩は、ふと尋ねてみた。
「お前は、動物が好きか」
「好きですよ。飼ってはいないけど、犬には特に思い入れがあるんです」
そう言って仲西青年は、どこか寂しそうな顔をして笑った。それが少しだけ頭の片隅に引っ掛かったが、萬狩は、あえて詳細を尋ねなかった。
社交性に弱い萬狩が、三回目でようやく見慣れたのは、老犬が行う『お見送り』だった。シェリーはいつも、帰ってゆく関係業者の車を玄関先で見送った。車が去っていく姿を見つめ、二、三回ゆっくりと尻尾を床の上で左右に振るのだ。
彼女は、自分の世話を焼いてくれる彼らにすっかり懐いているのだろう。無暗に煩く吠えた事はないし、見送る顔は微笑んでいるようにも見える。
人間とは違って、動物とはそういうものなのだ。萬狩は、「さしずめ、俺はご飯とトイレシートの交換係りか」とぼやいた。
※※※
一緒に住むようになってから三週間が過ぎた頃、老犬は、萬狩の足元にいる事が多くなった。
萬狩が暇を持て余し、開け放ったリビングの大窓から外を眺めていると、特に用事もないくせに隣に腰かけて、同じように縁側を眺めたりした。
「どうも、暇過ぎるなあ」
彼がそう呟くと、「ふわ」と答える声があった。掠れて吐息交じりの、特徴あるシェリーの鳴き声に、萬狩はピタリと口を閉じて、ちらりとそちらを見降ろした。
そう言えば、こいつは鳴けるのだったな。
聞いたのはこれが二回目だ。そう思い出しながら声の方を向いた萬狩は、シェリーの瞳が輝いたような気がして、思わず顰め面を作った。
別にお前に言ったわけじゃないぞ、と萬狩はつっけんどんに言ったのに、老犬は楽しそうに床の上で尻尾を振った。
萬狩は、ふと尋ねてみた。
「お前は、動物が好きか」
「好きですよ。飼ってはいないけど、犬には特に思い入れがあるんです」
そう言って仲西青年は、どこか寂しそうな顔をして笑った。それが少しだけ頭の片隅に引っ掛かったが、萬狩は、あえて詳細を尋ねなかった。
社交性に弱い萬狩が、三回目でようやく見慣れたのは、老犬が行う『お見送り』だった。シェリーはいつも、帰ってゆく関係業者の車を玄関先で見送った。車が去っていく姿を見つめ、二、三回ゆっくりと尻尾を床の上で左右に振るのだ。
彼女は、自分の世話を焼いてくれる彼らにすっかり懐いているのだろう。無暗に煩く吠えた事はないし、見送る顔は微笑んでいるようにも見える。
人間とは違って、動物とはそういうものなのだ。萬狩は、「さしずめ、俺はご飯とトイレシートの交換係りか」とぼやいた。
※※※
一緒に住むようになってから三週間が過ぎた頃、老犬は、萬狩の足元にいる事が多くなった。
萬狩が暇を持て余し、開け放ったリビングの大窓から外を眺めていると、特に用事もないくせに隣に腰かけて、同じように縁側を眺めたりした。
「どうも、暇過ぎるなあ」
彼がそう呟くと、「ふわ」と答える声があった。掠れて吐息交じりの、特徴あるシェリーの鳴き声に、萬狩はピタリと口を閉じて、ちらりとそちらを見降ろした。
そう言えば、こいつは鳴けるのだったな。
聞いたのはこれが二回目だ。そう思い出しながら声の方を向いた萬狩は、シェリーの瞳が輝いたような気がして、思わず顰め面を作った。
別にお前に言ったわけじゃないぞ、と萬狩はつっけんどんに言ったのに、老犬は楽しそうに床の上で尻尾を振った。