煙草を吸うため、萬狩は足元にシェリーを連れ、玄関から庭へと回った。

 晴れた空から降り注ぐ日差しは暖かく、そこにいる間だけは冬を感じさせなかった。まるで、秋先のような暖かさだ。

 萬狩がテラス席で煙草を吸っている間、シェリーは、彼お手製の花壇を覗き込んで鼻を近づけていた。秋の暮れまでパンジーが植えられていた小さな花壇は、季節の変わり目で花が散り、先月末からヒナギクを植えていた。

 それは冬から春に掛けて咲く花で、萬狩はホームセンターで「丈夫で初心者でも育てやすいですし、春まで楽しめますよ」と店員に勧められ、ピンク色、赤色、白色のヒナギクを揃えて購入していた。

 別に園芸に興味があるわけではなかったが、パンジーがほとんど散ってしまった花壇は、なんだか寒い印象だったから、萬狩は放っておく事が出来なかっただけなのだ。買い物の間、古賀と仲西に留守を任せていたので、いるついでに手伝わせて一気に植え替える事も出来た。

 萬狩は、土いじりを楽しげに行っていた青年組の様子を思い起こしていたが、ふと、吹き抜けた強い風に冷気を覚え、身体を震わせた。

 沖縄は海から吹く風が強いから、そこまで低くない気温でも寒さが身に沁みる。

「寒いなぁ……」

 向こうにいた頃は、十九、八度ぐらいはどうって事もなかった。実際の気温に対して、沖縄の場合は、体感温度が低い事に驚かされる。

 尻尾を優雅に振っていたシェリーが、萬狩のズボンの裾を引っ張った。

 なんだ、と顔を向けると、老犬は例の声で「ふわん」と楽しげに鳴いて、それから踵を返してリビングの開いた窓から家の中へと入って行った。

 それから数分もせず、老犬が、一つのビーチボールを鼻で押しながら戻って来た。