「え~、どうせ萬狩さん、お一人でしょう?」
「前にも思ったが、お前のその台詞には悪意を感じるな」
「僕のアパート、夏は熱くて冬は寒いんですよ」

 クリスマスがない代わりに年末年始は休みなのだと、仲西は、ストーブの前でシェリーを抱きしめながら自慢するように言った。仲村渠が「年越しそばをお裾わけしますよ」と萬狩を見て述べ、仲西が「お泊まり楽しみですッ」と笑顔でシェリーに頬を押し付けた。

 これはもう駄目だ、完全にやつらのペースになっている。

 というか、こいつらは、どうして揃いも揃って人の話を聞かないんだ。この数秒の間に、クリスマス・ケーキだけだった予定が、宿泊にまで発展しているとは、一体どういう事だろうか。

 萬狩は「もう勝手にしてくれ」と天井を仰いだ。今週末に予定されている焼き芋パーティーと、一年に一度の季節イベントであるクリスマスもまだ来ていないというのに、全く、気が早い連中である。

 仲村渠は手術の仕事が入っているとの事で、シェリーの元気な様子を少し眺めた後、お茶も出来ずに申し訳ないと告げて、早々に帰っていった。萬狩は、一度もお茶に誘ったこともないし、それはあなたが勝手にやっている事だが、と思った。

 年末の仕事の段取りのせいで、上司に早く戻ってくるようにと指示を受けていた仲西も、昼食を摂った後「もっとぐうたらして遊びたかったのに」と本音をこぼしつつ、重い足取りで出ていった。これには萬狩は堪らず「お前は仕事をしろ」と告げた。

 老人獣医と青年がいなくなった家に、萬狩とシェリーだけが残された。開いた玄関で仲西を見送った萬狩は、冷たい風に頬が冷やされるのを感じながら、頭上から降り注ぐ暖かい日差しに、背伸びを一つした。