仲西と同じ強さの寒さが苦手らしい老犬は、相変わらずストーブの前に陣取ってはいたが、じっとして動かない仲西と違い、遅れてやってきた仲村渠を軽い足取りで出迎えるなど、暖かく短かった秋以来の好調ぶりを見せていた。

 先月から、木曜日にも診察にやってくるようになっていた仲村渠老人が、シェリーの診察を一通り終えた後、「デパートは、すっかりクリスマスムードですよ」と溜息をこぼした。

「別に、私はクリスマスが嫌いなわけではないのですけれどね。ただ年々、孫達の活発な行動力には、押し負けると言いますか」
「もみくちゃにされるんでしたっけ?」

 思い出したように、仲西が相槌を打った。

 こいつら本当に仲が良いな、と萬狩が呆れたように見守る中、食卓に腰かけた仲村渠と、ストーブの前に座ったシェリーを抱き寄せた仲西の会話は続いた。

「子供って、どうしてあんなに元気なのかなぁ。それに比べて、仲西君はいいよねぇ。実に平和なクリスマスのうえ、お金もかからないんだもの」
「仲村渠さんのは贅沢な悩みなんですッ。クリスマス・イブはちょうど休みですけど、クリスマス本番の日は、午前中に少し仕事がありますし、……何より、その後一人でケーキを食べるのは寂しいもんですよ」
「あらまぁ」

 二十代後半とは思えない幼い顔で、唇を尖らせてそっぽを向いた仲西を見て、仲村渠が、わざとらしく口許に手をあてた。

「寂しいクリスマスだねぇ」
「いえ、大丈夫です。今年は萬狩さんと鍋をつついて、ケーキを食べて、シェリーちゃんともプレゼント交換する予定でいますから!」

 途端に、仲西が得意げに言ったので、萬狩は顰め面で「そんな予定を立てた覚えはないぞ」と間髪入れず訂正した。