冬場はもっと寒くなるだろうからと考え、萬狩は、電化製品店でストーブも一つ買ってリビングに置いた。面白半分で温度計も購入し、リビングの庭側の壁に設置したのだが、早朝の外気温が、新聞の最低気温よりも三度も低くて驚いた。

 道理で朝が寒いと感じる訳だ。

 萬狩は上着を肩に掛けて、テラス席で煙草を吹かした。シェリーは老犬の身でも寒さに堪えないのか、彼の足元に腰かけて上機嫌に尻尾を揺らしていた。

 仲村渠に言わせると時期的なものらしいが、日差しが弱い日々が続く中、一日に何度か、唐突に弱い雨が降る事がしばらく続いた。

 庭の雑草が、好機だと言わんばかりに成長するものだから、雨が上がった日は庭の雑草刈りに追われた。そんな時は大抵、長袖ジャケットを着込んだ仲西がやって来て「冬は寒くて嫌になりますよねぇ」と言いながら手伝った。彼はシェリー専属であり、大半の仕事は自由がきくのだと自慢する。

 自由がきくにしても、自由過ぎるだろう。

 お前、仕事はちゃんとしているんだろうな?

 庭の雑草刈りをしている時、月曜日でも木曜日でもない日に仲西が顔を出すたび、萬狩は、掛ける言葉が迷子になった。てきぱきと庭で作業に取り組み、「そろそろ水分補給と休憩が必要ですよ、萬狩さん!」と細かく指摘してくる仲西に、萬狩は、お前は俺の息子か何かなのか、と何度も喉元に出かけた。

 シェリーは庭先に足は運ぶものの、ストーブの電源が入る頃になると、リビングに置かれたストーブの前で座っている事が多くなった。

 寒さに弱いらしい仲西も、大抵そこに居座った。仲村渠老人は、白衣の下からしつかりカーディガンを着込み、「靴下も厚地ですよ」と、わざわざ自慢するほどの装備だった。