どこで良しと判断されたのか、萬狩は思いあたる節がなかった。しかし、どうしてか、あの愛想もない弁護士の態度が、大事な友人を失い、休む間もなく何十人と会ってきた疲労感であるのならば、その失礼さを非難する事は出来ないと、そう理解する事は出来るような気もした。
「シェリーちゃんの兄弟も、先に全員亡くなってしまったぐらい、彼女は長く生きています。サチエさんが逝ってしまったタイミングで、彼女もだいぶ弱ってしまった時期がありましたから、私にとって今の状態は、まるで夢のような奇跡でもあるのです」
「……それは、済まない事をした。酒井さんも、きっと会いたがっているだろうに」
「いいえ、萬狩さん。彼は、シェリーちゃんまで見届ける勇気がないのです。だから、いつも私が話して聞かせてあげているのですよ。可笑しいでしょう? あんなに生意気だった男も、歳を取ると弱くなるものなのですよ」
萬狩さん、あなたのお気持ちも分かりますよ。と続けて、仲村渠はそこでようやく、穏やかな眼差しを萬狩へ向けた。
「あなたは、軽々しく彼女の名前を呼ばない。それは、情を移してしまう事を、その先を見届けなければならない事も知っている、優しい人間のそれなのです」
「――……何度も言うように、あなたは俺を買い被り過ぎだ」
思わず、感情を隠すために顔を顰めて見せれば、仲村渠が苦笑し「買い被りなどではありませんよ、酒井だって、あなたよりも長く生きて、人を見る目は確かなんですから」と言った。
「本当は、こんな悲しい未来の事を言いたくはありませんが、――もし、最期の時が来たならば、その時は、互いの時間を大切になさって下さい。心臓が止まってしまっても、すぐに全てが途絶えるわけではないのだと、私はそう感じてもいるのです」
「シェリーちゃんの兄弟も、先に全員亡くなってしまったぐらい、彼女は長く生きています。サチエさんが逝ってしまったタイミングで、彼女もだいぶ弱ってしまった時期がありましたから、私にとって今の状態は、まるで夢のような奇跡でもあるのです」
「……それは、済まない事をした。酒井さんも、きっと会いたがっているだろうに」
「いいえ、萬狩さん。彼は、シェリーちゃんまで見届ける勇気がないのです。だから、いつも私が話して聞かせてあげているのですよ。可笑しいでしょう? あんなに生意気だった男も、歳を取ると弱くなるものなのですよ」
萬狩さん、あなたのお気持ちも分かりますよ。と続けて、仲村渠はそこでようやく、穏やかな眼差しを萬狩へ向けた。
「あなたは、軽々しく彼女の名前を呼ばない。それは、情を移してしまう事を、その先を見届けなければならない事も知っている、優しい人間のそれなのです」
「――……何度も言うように、あなたは俺を買い被り過ぎだ」
思わず、感情を隠すために顔を顰めて見せれば、仲村渠が苦笑し「買い被りなどではありませんよ、酒井だって、あなたよりも長く生きて、人を見る目は確かなんですから」と言った。
「本当は、こんな悲しい未来の事を言いたくはありませんが、――もし、最期の時が来たならば、その時は、互いの時間を大切になさって下さい。心臓が止まってしまっても、すぐに全てが途絶えるわけではないのだと、私はそう感じてもいるのです」