「憧れていた、というものなのでしょうかねぇ。酒井は犬を飼っていて、友人の紹介で、当初は私の店に来た古い客の一人でした。……まぁ彼女は、私や酒井よりも年上でしたし、早くに夫を亡くしたとはいえ既婚者でしたから、まるで弟のような扱いでしたが」
萬狩は、なんと応えて良いか分からず、「そうか」と相槌を打った。
「ええ、そうなのです。私も酒井も玉砕して、――けれど結婚後も、長い付き合いの友人として、私達の関係は続いていました。シェリーちゃんは、里親を探していた四匹兄弟のうちの一匹だったのです。二匹は早々に飼い主が見つかったのですが、残りの二匹が残ってしまいまして。ウチは孫と住んでいましたから、家族が反対して、それじゃあと名乗り出たのが、酒井とサチエさんだったのです」
話しながら、仲村渠が懐かしさに目を細めた。
「ゴールデンレトリーバーを飼っていた酒井が、オスの仔犬を引き取って、当時ペルシャ猫を飼っていたサチエさんが、うちの家なら広いからと、メスの仔犬を引き受けてくれました。彼女には子がいなかったものですから、まるで我が子のように可愛がっていましたよ」
若かった獣医と弁護士は、互いに一人の未亡人に惹かれていた。憧れと知って、それでも友好関係は、暖かく穏やかに続いたのだろう。
そう想像して萬狩が黙りこむ隣で、仲村渠は、独り言だと言わんばかりに話しを続けた。
「サチエさんに病がある事が発覚したのは、そりより少し前の事でした。一度発作で倒れた事もあって、私達は、頻繁に彼女の家を訪れるようにしていました。妻や友人にも、それとなく協力してもらって、独り身の彼女の家によく遊びに行きましたよ。そうしているうちに、シェリーちゃんもすっかり歳老いてしまって、どちらが先に逝ってもおかしくないと思っていたものです」
萬狩は、なんと応えて良いか分からず、「そうか」と相槌を打った。
「ええ、そうなのです。私も酒井も玉砕して、――けれど結婚後も、長い付き合いの友人として、私達の関係は続いていました。シェリーちゃんは、里親を探していた四匹兄弟のうちの一匹だったのです。二匹は早々に飼い主が見つかったのですが、残りの二匹が残ってしまいまして。ウチは孫と住んでいましたから、家族が反対して、それじゃあと名乗り出たのが、酒井とサチエさんだったのです」
話しながら、仲村渠が懐かしさに目を細めた。
「ゴールデンレトリーバーを飼っていた酒井が、オスの仔犬を引き取って、当時ペルシャ猫を飼っていたサチエさんが、うちの家なら広いからと、メスの仔犬を引き受けてくれました。彼女には子がいなかったものですから、まるで我が子のように可愛がっていましたよ」
若かった獣医と弁護士は、互いに一人の未亡人に惹かれていた。憧れと知って、それでも友好関係は、暖かく穏やかに続いたのだろう。
そう想像して萬狩が黙りこむ隣で、仲村渠は、独り言だと言わんばかりに話しを続けた。
「サチエさんに病がある事が発覚したのは、そりより少し前の事でした。一度発作で倒れた事もあって、私達は、頻繁に彼女の家を訪れるようにしていました。妻や友人にも、それとなく協力してもらって、独り身の彼女の家によく遊びに行きましたよ。そうしているうちに、シェリーちゃんもすっかり歳老いてしまって、どちらが先に逝ってもおかしくないと思っていたものです」