反対者はないと確認したところで、萬狩は、隣の仲西へと視線を戻した。

「そういえば、お前、横になったまま撮るつもりなのか?」
「伸ばし棒があるので、問題ないです!」
「なんだ、それは」
「自分撮り用に販売されている便利グッズですよ。セットで購入すると、すごくお得なんです。西野さんも、それで構いませんか?」
「私も大丈夫ですよ。髪をセットしようとしなかろうと、対して可愛くならないもの」

 西野は、そう打ち解けた顔で笑った。前髪が横に落ちて額が大きく覗いたその顔は、高校生に思えるほど幼かった。

 仲西が『伸ばし棒』と評したものを取りつけられたカメラは、やはり萬狩達には見慣れなくて、横になって見上げる夜空に、それが、そろりそろりと伸びていく光景は笑いを誘った。

 仲西青年は「最先端の流行なんですよ。海外では大人気なんだから。今後、国内でも人気が出ますからね」と主張し、それからカメラの最終設定を行った。

 しばらくもしないうちに、カメラの撮影ランプが灯り、自動でシャッターが切られた。途端に仲村渠が、「前髪をセットしておけば良かったかなぁ」とぼやいた。爺さんには要らんだろう、という言葉が、萬狩の喉元までせり上がった。

        ※※※

 鍋パーティーは、夜も早い時間に終了の運びとなった。古賀は彼女の車で来ていて、帰りは勿論アルコールの入っていない西野の運転だったから、無理はさせられないという意見で、早々の解散が決まったのだ。

 萬狩と仲村渠は、年長組という事もあり、西野の運転する車と、仲西が運転する原動付きバイクが問題なく出ていくのを、シェリーと共に見送った。

 バイクに乗った仲西の姿が見えなくなった頃、仲村渠が、振っていた手をそっと降ろして「萬狩さん」と言った。