鍋の開始は夕刻だったので、日中は、前回のバーベキューと同様に、仲西が持参してきたビーチボールやボードゲーム、トランプゲームが行われた。

「このレースゲーム、四人で出来るんです」

 仲西青年がやけに凛々しい表情で、続いて取り出して見せたのは最新のゲーム機だった。萬狩は当初「テレビゲームかよ」と呆れたのだが、いつの間にか、同じく最新ゲームは素人であるはずの仲村渠老人に対抗意識を燃やし「負けるものか」と意地になってゲーム操作機を動かしていた。

 鍋パーティーの目的でもあるプロポーズに関しては、結果的を言えば、彼は理想通りの行動をスムーズに起こせなかったのだが、まぁ、上手くはいった。

 鍋が始まっても、ヘタれな古賀は、ビールの力を借りても中々告白を切り出せなかった。事前に仲西と打ち合わせしていたにも関わらず、仲西が作った絶妙なタイミングで、言葉が出なくなってしまったのだ。

 見守っていた萬狩は頭を抱えたし、仲村渠(なかんだかり)は「あらあら」と首を傾げた。

 そこで、堪え性のない仲西が唐突に、実にあっさりと西野に「古賀さんがその漫画家さんなのです」とカミングアウトし、その勢いに押された古賀が、慌てて自身の口からプロポーズした、というのが事の顛末だった。

 西野は、古賀が真っ赤な顔で、しどろもどろに告白する間、少しだけ目を見開いて聞いていた。場がようやく静まり返った時、まるで昨日の天気を思い出すような表情と声色で「うん、知っていたよ」と、自身の告白も返した。

「でも、ツトム君は隠しているみたいだったから。だから私、ツトム君が言ってくれるのを、ずっと待っていたんだよ」

 それは萬狩が予想していた結果だったが、それでも彼は、「良かった」と安堵せずにはいられなかった。どうやら、出会い頭にそれを薄々察していたらしい仲村渠も、初々しい古賀と西野のやりとりを、微笑ましそうに眺めていた。