萬狩が小さく肯いて見せると、彼女は、安堵したように胸を撫で下ろし、それから、やや緊張した顔に控えめな微笑を浮かべた。

「改めて自己紹介させて頂きます。その、ツトム君とお付き合いさせて頂いている、西野(にしの)マリナといいます」

 ツトム、と聞いて萬狩達が首を捻って古賀へ目を向けると、古賀が「ぼ、ぼくの下の名前なんです……」と、何故が頬を染めてそう言った。

 なるほどな。フルネームが古賀ツトムなのか。

 萬狩は納得し、改めて彼女に向かって自己紹介をした。彼の後ろにいた仲村渠と仲西が、それぞれ顔を見合わせて笑い、それから西野に愛想よく名乗り出た。

 古賀が、萬狩の足元にやってきたシェリーを見て、どこか嬉しそうに彼女に紹介するのを、しばし三人は見守った。

 萬狩は、この『プロポーズ大作戦』とやらは、きっと失敗はないだろうと思った。

 何故なら、西野マリナが、くびれのないロングスカートの前で組んでいる両手は、これから起こる事を察しているかのように、どこか期待を漂わせて、しっかりと緊張している様子でもあった。

 心境は、どこか手間のかかる息子を眺める気持ちだった。

 萬狩が父親目線で「やれやれ」と吐息をこぼすと、仲村渠が孫を見る目で「うふふ」と笑い、仲西が兄貴ぶって「成功間違いなしッ」と声を潜めて笑った。

        ※※※

 西野は、実家で猫と犬と鶏を飼っていた経験があり、萬狩宅を訪問してすぐ、大人しいシェリーを可愛がってよく撫でた。

 彼女は、まるでシェリーとの距離感を少しでも縮めようとするかのように、昨日までの曇天が嘘のように晴れた空の下、仲西と古賀に案内されながらシェリーと一緒に歩き、クッキーを片手に「お座り」「お手」もやった。