箱を開けてみると、六人以上はありそうな鍋用の肉が数種類入っていた。そこには何故か、『老犬用』と記載のある柔らかいペット菓子の小袋が一つと、メモ用紙が一つあり、メモには長男の名前と、パソコン用のメールアドレスが記載されていた。

 萬狩は仕事の都合上、昔からパソコンのメールを主に利用していて、恐らくこれは、和也が仕事兼プライベートで使用しているアドレスだろうと推測した。

「……なんでアドレスを寄越してきたんだ?」

 他に用件の走り書きもないので、意図が分からない。

 萬狩は、開けた箱を興味津々に覗きこむ老犬に、ペット菓子を試しにあげてみた。すると、驚くほど食い付いたので、ひとまずお礼のメールを送信してみる事にした。

 メールを送信して数分、驚くほど早くメールの返事があった。そこには、『人気だから、それ』とだけ記されており、仕事が出来て、ディベートも得意な息子だとは思えないほど、言葉があっさりとしていた。

 長男は、プライベートでは口数の少ない子だったが、まさか、友人達にもそのような感じじゃないよな、と萬狩は訝しみつつも、そのメールに「お前、犬でも飼っているのか」と更に返信した。

 すると、またしてもすぐに返事が返ってきた。

『いずれ、飼いたいとずっと思っている。だから、知識は必要不可欠』

 萬狩は、メールの文面を前に沈黙した。

 こいつ、もしや会話文が駄目なタイプなのか? 

 変換は正しく利用されているが、萬狩はまるで、自分が初めてメールを使った時の事を思い出した。息子はまだ二十八歳であるし、その可能性はないとは思うが、面倒臭がりな一面でもあったのだろうか、と悩ましげに首を捻った。

 結局、他に打つべき文章も見つからず、メールのやりとりは、そこで自然に終了となった。