撮影されるのは苦手だと言っていた古賀も、堂々と仲西が「こっち向いて下さい」と笑顔でカメラを構えると、拒否もせずに、不器用な笑みを浮かべて見せていた。

 分かっているのだ。この時間が、永遠には続かない事を。

 だから少しでも多くの何かを、萬狩達は急くように刻みつけている。

『僕らにとって、いつだってあなたは大き過ぎる存在だったから、幼いながらに迷惑を掛けないように、怒られないようにと考えていた節もあったと思います。なんだか、父さんと母さんが離婚して初めて、こうして対等に近い状態で話せるようになって、良かったなと感じるところもあるのです。でも、きっと誰よりも、兄さんがあなたを気に掛けているのではないのかな、とも感じています。以前兄さんに、父さんは不器用だけど幼い頃、一緒に過ごせる短い時間が優しくて穏やかで、とても好きだったのだ、とも教えられた事があるのです』

 その文面を読み進めて、萬狩は、少しだけ胸が熱くなってしまった。自分が、こちらの家に移り住んでから思い出した事と同じ記憶を、長男も思い出していたのだと察した。

 昔、友人から犬を預かった。それは数える程度の日数で、指で数えられる程度の散歩だったが、唯一、父と息子としての風景だったようにも思えた。

 俺はお前達に、一体何をしてやれただろうか。

 何故か、訳も分からず胸に苦しいものが込み上げて、萬狩は一度、手紙から目をそらして深呼吸をした。それから、落ち着いた心境で残りの文面を読み終えた。

 萬狩は、次男からの手紙をしまおうとした時、ふと、封筒内に小さなメモ用紙が置き忘れられている事に気付いた。

 何だろう、と思って取り出してみると、それは、見覚えのある見事な達筆で、こう書かれていた。

『先生のサインをもらって、差し出し人宛ての住所に送ってちょうだい。 ――トキコ』