シェリーとは、萬狩よりも短い付き合いの古賀も、薄々何かを感じ取っているように、出来るだけ仲西が訪問する日に顔を出すようになっていたからだ。

「それで、鍋のテーマは何なんだ?」
「肉ですよ萬狩さん!」
「漁師友達の魚も投入致します」
「あれ? ぼく、メールで『実家の名産鳥肉』を頼まれましたよね……?」
「…………」

 ああ、もう勝手にしてくれ。

 萬狩が無言で天井を仰ぐと、足元にいた老犬が「ふわん」と楽しそうに鳴いた。

        ※※※

 鍋パーティーの日取りが四日後に迫った水曜日、自宅の古い郵便ポストに、一通の手紙が届いた。

 すっかり鍋の準備しか頭になかった萬狩は、その差し出し人を見て、先日に一度向こうに戻った際、次男の翔也にこちらの住所を教えた事を思い出した。

 手紙は、便箋二枚分に読みやすい筆記体で書かれていた。

 どうやら、仲西はいつの間にか翔也とも仲が良くなったようで、手紙には、鍋パーティーの件を聞いたとも記してあった。萬狩が驚いたのは、長男の和也がそれを知って、土曜日に届くよう、鍋に使える肉類を注文しているという事だった。

 萬狩はリビングで、シェリーが食事を食べ終わるのを待ちながら、翔也からの手紙を読み進めた。

『僕もそうだったけれど、今思えば、遠慮せずに話しかけていれば良かったなと、少しだけ仲西君を羨ましく思いました。彼、こっそり写真を撮っているみたいで、――あ、でも怒らないであげて下さいね』

 怒るも何も、萬狩は、それを目撃して知っている。仲西は特に最近、意識的か無意識か、シェリーと過ごす萬狩達の様子を撮影するようになっていた。

 萬狩が気付いていないと思って、仲西青年は「しめた」という顔で、こっそりカメラを構える。勿論、萬狩はそれに気付いていて、仲村渠と共に知らない振りをしていた。