萬狩がそう言いながら顰め面を向けると、そろそろおいとましようと支度していたマイペースな仲村渠老人が、彼の視線に気付いて、壁に掛かっているカレンダーに指を向けた。

「ちゃんと予定表に書きこんでおきましたから、安心なさい」
「それは俺の家のカレンダーで、その気遣いにはちっとも安心出来ないんだが」
「古賀君が、彼女に告白出来るかもしれない大事なパーチーなのですよ、萬狩さん」

 仲村渠は、表情そのままに「パーチーです」ともう一度、可愛らしい言い方を意識してそう言った。

 残念ながら、老人が悪戯心を宿した目でそう口にしても、ちっとも可愛らしくは感じない。萬狩は、家主として俺の威厳も何もないなと頭を抱えた。

 萬狩は、全く面識のない古賀の恋人が『鍋パーティー』とやらに参加するさまを想像して、額に手をあてて悩ましげに呟いた。

「……はぁ。恋人まで招待するつもりなのか」
「す、すすすすみません萬狩さんッ。仲西さんにアドバイスをもらいまして……」

 だから、お前は相談する相手を間違っているんだ。

 萬狩は、その思いを溜息に吐き出した。心底「すみませんでした」と涙目になる丸い小男を見ていると、相談された時の様子も蘇り「……一人増えても、二人増えても同じだろ」とぶっきらぼうに述べた。

 仲西によると、古賀の『彼女にプロポーズをしよう!』という決心が鈍らないよう、彼の恋人には既に、招待状を郵送してもいるらしい。

 鍋パーティーの日取りは、一周間後に設定されていた。急過ぎる案件のようにも思えたが、誰もが同じ事を考えているのだと分かって、萬狩は反対しなかった。