「だって、まだアイスクリームが手放せないですもんッ」
「お前、いつか糖尿病になるんじゃないか?」
「彼、会社の健康診断で、中性脂肪が増えていると言われたらしいですよ」

 仲村渠が、面白がるようにそう言った。

 夜間は涼しくなったというのに、シェリーは寝付きが悪くなったようだった。萬狩が寝入っていると、深夜二時から三時の間にベッドに顔を出し、「ふわ」と鳴いて彼を起こした。

 腹が減っているのかと思ってクッキーを差し出すが、食べない。トイレがいっぱいになっているのかと思ってチェックするが、特に問題はない。

 ただ、彼女は起きた萬狩の向かう先についてくるだけだ。萬狩はそのたびに、老犬をじっと見降ろした。

「なんだ、寝むれないのか」
「ふわん」

 萬狩はシェリーを連れ立って、庭へと続くリビングの窓を開け、サンダルを履いた。

 少しだけ欠けた、大きな月が出ている静かな夜だった。灯を消した室内に差し込む青白い光は眩しく、萬狩は縁側の窓を開け、涼しい夜風を感じながら煙草を吸った。

 それから、何をする訳でもなく、萬狩は庭先で夜空の月を眺めて時間を潰した。シェリーは彼の足元に礼儀正しく座り、けれど、それ以上に何かをする事も、求める事もなく、萬狩と同じ方向へ顔を向けていた。

 そんな日々が毎夜のように続き、見上げる月が、円形から半分の形にまで変化した頃、沖縄は、しばらく不安定な天気が続いた。ようやく季節が変わるのか、一雨ごとに日中の気温も下がり始めた。


 しばらく顔を見なかった古賀がやって来たのは、十一月に入った第一週目の月曜日だった。

 仲西と仲村渠が、それぞれの仕事を終えた頃、訪問した古賀は「ご無沙汰してます」と、相変わらずどもり気味にそう言った。