すっかり傍観者になりきっていた谷川が、萬狩の肩をつつき、こう耳打ちした。

「どれぐらい続くんだろうね?」
「俺が知るか」
「いやはや、すごく社交的な青年だねぇ。僕も、是非話してみたくなっちゃったよ」
「礼儀知らずなんだ。止めておけ、頭が痛くなるから」

 萬狩が憮然として答えれば、電話を続けていた翔也が、こちらへ視線を向けた。

 なんだ、終わったのか。

 そう萬狩が目で問えば、翔也は小さく肯いて見せる。

「番号交換しておきましたので、一旦こちらの電話は、父さんにお返します」
「早いな」
 
 今時の若者はみんなそうなのか。

 萬狩は腑に落ちない様子で、けれど次男から素直に携帯電話を受け取った。受話器に耳をあてて「おい」と声を掛けてすぐ、仲西がこう言った。

『萬狩さん、お土産の一つにヒヨコ饅頭をお願いします!』
「お前、他に言う事はないのか?」

 萬狩の隣で、途端に谷川が「こりゃいい!」まさに傑作だと言いながら、とうとう声を上げて笑い始めたのだった。
 
        ※※※

 土産の菓子をいくつか見繕って購入し、再び飛行機に乗って沖縄に戻った萬狩を待っていたのは、尻尾を大きく振った老犬シェリーと、瞳を輝かせた仲西、それから申し訳なさそうに肩身を狭める古賀だった。

 どうやら、古賀は仲西の暴走を止めようと頑張ったものの、結局は話を聞いてもらえなかったらしい。電話の件をひどく謝られて、萬狩は溜息交じりに「大丈夫だ」とつい彼を労った。

 老人獣医は仕事で先に帰宅していたが、テーブルの上には『お疲れ様、お土産残しておいて下さい』としっかり伝言メモが残されていた。その食い意地が元気の秘訣でもあるんだろうかと、萬狩は、マイペースな仲村渠を思い浮かべて顔を引き攣らせた。