「……飼うというか、なんだ。面倒を見てやっているんだ」

 こいつが、かなり年寄り犬でな、と萬狩は不器用ながら、ぽつりぽつりと語ってみた。金銭面の事情を除いて少しだけ話し聞かせてやると、翔也は「妙な話もあるもんですねぇ」と目を見張る。

 お調子者で菓子が大好物の青年がいて、ふてぶてしくもどこか頭の上がらない老人獣医がいる。最近巻き込まれた事は、漫画家の青年の小さな騒動で、その一件で何故か、漫画家までバーベキューにも参加し、今では他のメンバーと同じように家にやってくる……

 妙な奴らなんだ、と萬狩は、普段谷川と話すような口調で、自身の言葉で話を続けた。

 また何かしら自宅で行われるだろうが、その時に、また知らない人間が招待されている可能性もあるだろうし、とにかく静かで落ち着いた一人の時間は、週に半分しかない。

 あの犬は、ピアノが好きらしいんだ。弾けないと言っているのに、しつこく構ってくるから、そのおかげで二ヶ月はピアノ教室に通う事になって、それで例の漫画家と出会って……

 萬狩の話を一通り聞いていた翔也が、ふと、萬狩が口にした古賀のペンネームを反復した。

「どこかで聞いたと思ったら。――父さん、僕、その作家さん知ってますよ」
「なに? ドウジンとかいうやつで、漫画だぞ?」
「あはは、やだなぁ父さん。僕も兄さんも、漫画ぐらいは読みますよ。兄さんは診察待ちの間、置かれている少女マンガを読んでチェックしていますよ」

 それを聞いていた谷川が、口許に手をやって「え、あの子が無表情で少女漫画読んでるとか、イメージだけでちょっと怖い感じになるんだけど」とぼやいた。

 萬狩も同じ事を思ったが、すぐに「ちょっと待て」と、ひとまず、自身の思考を落ち着けて翔也に尋ねた。