「えッ、父さんがバーベキュー? 誰か招待したんですか?」
「それが聞いて驚くよ、向こうで出来た知人数人を招いたんだって。都合があったなら僕も行きたかったよ」
「谷川、余計な事をいうな」

 萬狩は、嗜めるように言った。しかし、谷川は「歳が一回りも上と下の人と、楽しいバーベキューだったみたいだ」と肩をすくめつつ続けた。

「ほら、見てごらんよ、彼の肌艶といったら」
「なんだ、男に対して『肌艶』ってのは。俺の見てくれは何も変わっていないだろうが」
「お腹周りは若干スマートになったよ。広い庭の手入れのおかげかな」
「そうなのか?」

 ズボンのサイズにも変化はないのだが、と萬狩は一度しっかり確認した後、改めて谷川を睨み返した。にこにこと笑う親友の心情は、目で読み取る事が難しい。

 息子の視線を感じ、萬狩は、谷川との押し問答を打ち切る事にした。ここに彼以外の人間がいると思うと、どうにも落ち着けない気がした。

「父さん、『俺』って言うんですね」

 目を丸くしていた翔也は、「知らなかったなぁ」と僅かに苦笑を浮かべた。

 萬狩は咳払いを一つすると、「いいか、翔也」と言った。

「私は確かに沖縄に移住したが、別に、あのマンションに未練は全くなかったわけで――」
「お父さん、きっと良いように変わったんですね。なんか、こう、丸くなったのかな?」
「谷川がスマートと言った矢先に、なんでお前は『丸くなった』と言うんだ。おい、谷川どっちなんだ」
「え、そこで僕に振っちゃうの?」
「父さん、体系の方じゃないですよ」

 翔也は呆れたように言ったが、ふと、数秒間ほど考えるように視線をそらした。両手の指を少し遊ばせて、「時間があるのなら」と、再び萬狩を見据えて小さく微笑む。

「話してくれませんか、沖縄の家のこと。犬を飼うだなんて、予想してもいませんでしたし」