萬狩が怖いと自覚してしまった未来が、いつ訪れるかは分からない。けれど、終わりのない未来の可能性を語り、それを耳にするのは心地良いのだ。

 それを仲村渠老人は、きっと誰よりも多く経験して知っているのだ、と萬狩は気付いた。

「星の観察をしながら、お泊まりするのはどうですか? 僕は鍋パーティーがしたいです!」
「ぼ、ぼく自分で鍋をやった事がないので、その、自信がないんですけど……」
「私は、家では鍋の達人と呼ばれていますので安心なさい」

 仲村渠が、若者二人組みの話しに割って入った。萬狩は、調子づいた老人に「おい」と口を出した。

「なんの達人だって? ノンアルコールで酔っぱらっているんじゃないだろうな」
「泡盛がなければ酔えませんよ。おや、そういえば古賀君も、顔色一つ変わりませんねぇ」
「そりゃ一杯しか飲んでいないからだろう」
「す、すみません。あまり水分を摂る習慣がないんです」

 その時、彼らの足元で「ふわん」と気が抜けるような声が上がった。床の上で尻尾を左右に振っていたシェリーが、一同を見回し、それから首を自身のご飯場へと向けた。

 仲村渠が、壁にかかっている時計を見やって「ご飯の時間を、だいぶ過ぎてしまいましたね」と呟いた。

 既に、時刻は午後の十時を回っていた。

 仲西がシェリーの世話を買って出た。ペットを飼った事がないと言う古賀が、それに付き合う形で後に続いた。そのそばで仲村渠がカレンダーへと向かい、「鍋はいつがいいですかねぇ」と、勝手に予定を組み始める。

 萬狩は、仲西と古賀が、愛情を込めて老犬を撫で回す姿に、少しだけ目を細めた。