「いや、俺は別に名刺を求めたわけではないんだが」
「ちゃんと作ったのに、全然使う機会が少なくて……」
「そうなの? じゃあ僕、今度もらいますね!」
「私も、もらいましょう」

 その後、口頭で教えてもらった古賀のペンネームは、それなりに格好良いものだった。描いている先の出版社で、絵に相応しい名前として付けられたものであるらしいが、本人は、やはり神妙な表情をしていた。

 どのぐらいそこにいただろうか。

 古賀が集中的に虫に刺され始め、そこで星空観察はお開きとなった。

 バーベキューのために設置された大きな道具などを片付ける体力は残っていなかったので、後日片付けようという結論に達し、四人と一匹は、一度リビングに戻った。

「またこうして、皆でお喋りしましょうよ」

 遊び道具を袋に片付けながら、仲西が萬狩に笑いかけた。ビールは飲めないが、それ以外は付き合いますと、乗り気の姿勢を見せる。

 地元の小さな居酒屋があるから、今度、このメンバーで行きましょうと仲西が提案すると、仲村渠が「それはいいですね」と実に表情明るく言った。自宅近くの場所であれば、酒が飲めるのだと老人獣医は話す。

 萬狩は、酒好きな老人には呆れてしまったが、それでも『また』があるのは、何だか嫌な気分ではなかった。

 だから、萬狩は「そうだな、またやろうか」と考えるように答えていた。

 シェリーがいるこの家にいなければならないので、しばらく居酒屋の案はどうなるかは分からないが、この広い家の活用法など、彼らにはいくらでも思いつけてしまうだろう。

 仲村渠老人も、それを知ってか、居酒屋の件については取りきめるような話までは続けなかった。優しげな眼差しでシェリーを見つめ、居酒屋話に盛り上がる若者二人組に見られない位置で、こっそり萬狩に微笑みかけて、唇に人差し指をあてた。